不揃いな家族【7】
夕方になり虫の声が響き渡り始めた頃には、弟の熱もだいぶ引いたようで呼吸も落ち着いていた。
その様子に和人はホッと表情を和らげると、そっと弟の額にある布をとると桶に汲んである水に浸し、搾るとまた額に乗せる。
今、この家の家主である斎藤は市場へと出掛けておりいない。
「……ぃちゃ」
小さな声が聞こえ、ハッと目をやると弟が目を覚ましていた。
「にーちゃ…どーったの?」
大きな目をパチクリさせている弟に、思わず笑みが零れる。
「お前、どこも痛くないか?」
「ぅ…?」
きょとんと首を傾げながら
「あい!」
と元気よく返事をする弟に、嬉しそうに笑いかけた。
「…どうやら、持ち直したようだな。」
静かな声と共に姿を現した斎藤に、和人は嬉しそうに頷く。
「…だぁれ?」
じっと斎藤を見上げ、コテンと首を傾げる弟に、どう説明したらいいのか和人は頭を悩ませる。
すると斎藤が弟の近くにゆっくりと座り、目線を合わせ口を開いた。
「俺は、斎藤一だ。」
「?…しゃぃとーはしめ?」
パチパチと瞬きをする弟の額にそっと手を伸ばし触れると、「熱は引いたようだな。」と呟いた。
「あんたは、まだ名がないんだったな…」
「なー」
意味もわからず、無邪気に笑う弟を眺め、和人の方に目線を向けた。
「名がないと、いろいろと不便だ。付けてやった方がいいのではないか?」
「それは…そうだけど。俺…何て付けてやったらいいのか…。名前って、意味のあるもんだろ?だから、適当に付ける気にもなれなくて…」
しゅんっと項垂れる和人だったが、パッと顔を輝かせ斎藤を見つめる。
「なら、サイトウが付けて!」
「な…俺がか?」
和人の言葉に眉を寄せる斎藤に、力強く頷く。
「だって、弟を助けてくれたのはサイトウだし!ね?」
「………。」
にこにこと笑い無言で弟を見遣る斎藤を見つめる。
「…千歳。」
ポツリと告げられた言葉が、弟に与えられた名前だとわかり、和人は満面の笑みを浮かべ、訳もわからず斎藤に抱き着いて遊んでいる弟に声をかけた。
「千歳、これがお前の名前だよ!ち・と・せ」
「ちとしぇ?」
千歳に抱き着かれ戸惑う斎藤をよそに、兄弟は無邪気に笑い合った。
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