不揃いな家族【5】
男に連れられやって来たのは、森の近くにある小綺麗な家だった。
「ここは?」
おどおどと男に促されるまま家の中に入ると、そろそろと男を見上げる。
「…俺の家だ。」
静かな声音で告げると素早く靴を脱ぎ捨て、家の中に上がるとスタスタと奥の部屋へと消えた。
和人は戸惑うが意を決し家へと上がり込むと、奥の部屋へと向かった。
部屋では弟が布団に寝かされており、男は和人の姿を見つけると「来い。」とだけ告げた。
そろそろと和人が弟の傍らに座ると男は立ち上がり、「水を汲んで来る。」とだけ告げ静かに部屋を出ていった。
弟を見遣ると顔を真っ赤にし苦しそうに呼吸を繰り返している。
「ごめん…ごめんな。」
ぎゅっと両手を握りしめ、苦しげな表情で謝罪の言葉を紡ぐ。
守るって決めたのに
それなのに
弟は、今こうして苦しんでいる。
もしかしたら死んでしまうかもしれない。
自分の無力さに悔しくて涙が溢れてくる。
「…何を泣いている。」
ハッと顔を上げると、いつの間にか男が向かい側に座り水で濡らした手ぬぐいを弟の額に乗せていた。
「……。」
膝を抱え顔を埋めると小さく首を横に振る。
「…童、名はなんという。」
「……か、和人。」
ぐすりと鼻を啜り、か細い声で答える。
「和人か、良い名だな。和人、弟はなんというのだ。」
「……わからない。」
ぎゅっと膝を抱え、弟を見遣る。あの燃える町の中、逃げる途中でたった一人で泣いている弟を見つけた。
その時、弟はまだ立つ事も出来ない赤子だった。
だから名前なんて知らないし、和人も読み書きを教わり始めたばかりの頃で、つけようがなかった。
だから弟は¨弟¨のまま
「…そうか。」
男の静かな声に何故か涙が溢れた。
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