不揃いな家族【4】
「風邪だね。ただ、だいぶ衰弱しているようだ。おそらく栄養が足りておらんのだろう。」
朝早くにたたき起こされた初老の医者は、幼子を見遣りそう告げた。
「薬は出すが、何よりしっかりとした栄養を取らせ安静にさせることじゃな。」
「承知した。早朝に申し訳ない。」
「なに、これが仕事じゃ。気にする事はない。」
頭を下げる斎藤に気を良くしたのか、医者は朗らかに笑うと薬を渡してくれた。
医者のもとからの帰り道、和人は男に抱かれた弟を見遣り、まるで重りを付けられたかのように沈んでいた。
自分に、弟にしっかり栄養を取らせる事が出来るだろうか。
今だって、市場から野菜の一つしか盗めないのに。
でも、やらなければ弟は死んでしまう…。
つらつらと暗い思考に捕われていた和人は、自分がいつの間にか立ち止まっていた事に気づかなかった。
「童…。」
低い抑揚のあまりない声にハッと顔を上げると、男が無表情にじっと自分を見ていた。
「な…なんだよ。」
男の目にたじろぎながら、精一杯の虚勢を張る。
「お前達、親はどうしたのだ。」
「……いない。」
和人の答えに、やっと男の表情が少しだけ訝しげなものへと変わった。
「俺の親も、弟の親も戦争で死んじまった。」
「…では、あの家にはお前達だけか。」
「そうだよ。俺の家族は、弟だけだ。」
ぎゅっと汚れた自分の着物を握りしめ男に叫ぶように答える。
男は静かに「そうか。」とだけ言うと、また歩き始めた。
「おい、どこに行くんだよ!」
小屋への道とは違う道を行く男に慌てて和人は叫ぶ。
「あそこでは病人には少々勝手が悪い。良いから、着いて来い。」
それだけ告げると男は淡々と歩き始め、和人は仕方なく後を追った。
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