不揃いな家族【1】
新政府軍との激戦は、会津の降伏により終わりを向かえた。
生き残った会津藩士には謹慎が申し付けられ、そこに幾人かの新撰組の者達もいた。
新撰組三番組組長斎藤一も、その中にいた。誰よりも敵を屠り、敵に恐れを抱かせた男。
その男はただ静かに謹慎生活を過ごした。胸に大きな悲しみを抱いてー
謹慎生活が終えても斎藤は会津に留まっていた。行くべき場所が分からなかったのだ。故郷は捨てた、仲間と過ごした場所はもう誰もいない。
だから容保公に会津に留まってくれないかという要請は、斎藤にとっても思いがけない救い手だった。
ただ黙々と真面目に職務に励む日々。
そんな時だった。あの子供に出会ったのは。
職務を終え、住家へと向かっていた。市場は人で賑わう中、男の怒声が響き渡った。
「誰か!誰か捕まえてくれ!泥棒だ!」
声の方を見ると、小さな影が斎藤の方に向かってくる。
「…子供か。」
眉を寄せ、通り過ぎようとした子供の襟首を掴む。
「はなせ!はなせよ!!」
ジタバタと暴れる子供を無表情に見据えると、子供がビクリと震え大人しくなった。
斎藤自身はただ見ただけだったのだが、子供に恐怖を感じさせるのには充分だった。
真っ黒な服、腰に差した刀、何より感情の読めない鋭い眼差しー幼心にも逆らってはいけないと思わせる。
子供はぎゅっと体を強張らせ抱いた大根を守るように腕に力を込める。
「あ、ありがとうございます!」
先程の怒鳴り声の主であろう男が駆け寄って斎藤に頭を下げる。
「……盗られたのは大根か。」
「へ、へい。」
斎藤に気圧され言葉少なに頷く男を一瞥し、子供を見遣る。
「…いくらだ。」
「へ?」
「この大根はいくらだと言っている。」
淡々とした口調の斎藤に男は慌てふためき何とか金額を口にする。斎藤は無言で男に金を渡すと、子供を連れその場を立ち去った。
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