虹の向こう【19】
一体、どうしてこのような事になったのか、一はぐるぐると頭を悩ませた。
「おい、聞いてるのか、斎藤ー?」
「は、はい!聞いてます。」
ふらふらと危なっかしく揺れる体を支え、一は慌てて返事を返す。
「ったく、あのジジイ…女顔だの、優男だのと馬鹿にしやがって…てめぇなんざ、脂肪だけが取り柄じゃねぇか…あの脂め!」
ぐったりと一の肩に寄り掛かる土方を困ったように溜め息をついた。
付いて来いと言われ連れてかれた先は、レストランも兼ねたBARでそこで食事をとって普通に千鶴や会社の事についての話をしていたのだが、酒が進むにつれ雲行きが怪しくなった。
どうも日頃の鬱憤が溜まっていたらしく、次第に秘書課の女性社員についてや、取引先の愚痴が吐き出された。
そこで一はようやく土方が酔っている事に気づいたのだ。とりあえず、これ以上はマズイと判断し店を出たのだが、既に土方は完全に酔っ払いと化していた。
タクシーを拾い家までの道を聞くが明解な答えは得られず、一は諦めて自分の住所を告げたのだった。
「お客さん、着きましたよ。」
「ああ…すまない。」
清算を済ませると、ふらつく土方を支えよろめきながら3階の自分の部屋へと向かう。
「社長、しっかりして下さい。」
「んー…」
身を寄せてくる土方にほんのりと頬を赤らめながら、何とか階段を上りきった。
「いくら千鶴がいないからといって、飲み過ぎです。」
部屋に入り、ぐったりとベッドに座る土方に水を差し出しながら呆れた口調で叱り付ける。
千鶴が自分の姉のとこに泊まりに行っているが故、酒を飲んだのだろうが、いくら何でも飲み過ぎだ。
そうでもしなければ、やってられない気分だったのだろうが…。
「上着とネクタイは脱いで、もう寝て下さい。」
溜め息をつくと柔らかな声音で促すと、土方はのろのろと言われた通り上着を脱ぎネクタイを外した。
それを受け取り皺にならぬようハンガーにかけると、横になった土方にタオルケットをかけてやる。
何だか、大きな子供の様で少し可笑しかった。
「…おやすみなさい。」
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