虹の向こう【8】

千鶴side


「千鶴ちゃん、すまないが此処で少し待っていてくれるかい?」


「はぁい!」


今日の午後から父親が出張に行くことになった為、千鶴は幼稚園を早退し父親の会社に来ていた。


しかし父親は手が離せないらしく、千鶴はちょこんと秘書課の椅子に座り大人達に囲まれる中、大人しくしていた。


ところが井上の姿が消えた途端、その場にいた女性達がこぞって千鶴を構おうとしたため、怖くなって逃げ出してしまった。



どこに行っても知らない人ばかりで、泣き出してしまったところに一が現れたのだ。



千鶴が泣きながら縋り付いたら、抱き上げてくれた。


(はじめちゃん…いつも、やさしいニオイがする。)


ふわりと感じる石鹸の匂いが、とても安心するのだ。


父親と一が会話をしているのを大人しく聞きながら、¨もっと一ちゃんと一緒にいたい¨、そんな気持ちがむくむくと込み上げる。



「おとーさん、ちづる、はじめちゃんといっしょにいたい。」


だから我慢出来ずにポロリと言ってしまったのだ。


「おとーさんがしゅっ…しゅちょー?のあいだ、はじめちゃんとおるすばんしてる!」


良いことを思いついた!とにこにこ笑いながら告げる千鶴に大人二人はポカンとお互い顔を見合わせた。



「あ、あのな千鶴…それはお前が勝手に決める事じゃねぇ。いいからお前は、大人しく俺と大阪に行きやがれ。」



「!?」


ショックに顔を歪め千鶴は土方を見上げるが、呆れたような表情は変わらない。


「ぅ…はじめちゃーん…」


もしかしたらという思いで、うるりと潤んだ瞳で一を見つめる。


「あ……あの、出張から帰られるのはいつ頃になりますか?」


「一応、遅くても金曜の午後には戻る予定だ。」



今日は火曜……


「…よろしければ社長が留守の間、家でお預かりいたしましょうか?」



有休が余ってるし、可能だろう。



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