虹の向こう【3】

「そういえば、秘書課の町村さんって社長狙いみたいよ。」


昼休み、同じ部署の数人の女子達と共に昼食を取っていると、一人が声を潜めてはいるが興奮した様子で告げる。


「やっぱりー?なーんか怪しいなとは思ってたのよね。」


「確か同じ秘書課の笠井さんもよね?」


「ていうか秘書課の人間は皆、社長狙いって噂よ。かなりギスギスしてるみたい。」


楽しそうに噂話に興じる同僚達を横目に、一は溜め息をついた。

噂話に疎い一でも、その噂は知っていた。噂というが、半ば真実に近いだろうというのが噂を知る社員の認識だろう。


確かに石田製薬会社の社長は、若く端正な容姿をしている。しかも頭も良く有能だ。女子社員が騒ぐ気持ちも分からなくはないが、業務に私情を持ち込むのは如何なものか。


「確かにバツイチってのを引いても、社長は魅力的だもんね。」


「…バツイチ?」


聞こえてきた内容に首を傾げると、皆が驚いたように「斎藤さん、知らないの!?」と口々に叫ぶ。

「土方社長、3年前に前の奥さんと離婚してるのよ。」


「そうなのか。」


「確か子供が一人いたはずよ。」


¨結婚当初から、あまり仲は良くなかったみたいよ¨


等など、今度は社長の噂話に花を咲かせる同僚達を尻目に一はゆったりとコーヒーを飲みはじめた。


ただの営業事務でしかない自分には関係のない話だ……この時はまだそう思っていた。





きっちり定時までに仕事を終わらせた一は、特に寄り道する事なく帰宅の道についていた。そして、公園へと差し掛かった時



「あ、はじめちゃん!!」


幼い声に自分の名前を呼ばれ振り向くと、昨日出会った子供が笑顔で駆け寄ってきた。




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