母代わり
土方が薫から報告を受けていた頃、女はうつらうつらと閉じてしまいそうになる瞼を堪えていた。
普段なら直ぐに眠りにつくのだが、今は自分以外の人間がいるためそうはいかない。
何より目の前にある食べ物を放って置く事は出来ない。
今まで与えられていた食べ物はあまりに少なく、いつも空腹を感じていた。
それ故、与えられた食べ物は全部食べるようにしていた。
しかし、今目の前にある食べ物は女にとっては多く、中々進まない。
半ば意識がなく夢の中に片足突っ込んだ状態で、食べていた。
「あの、無理して食べなくてもいいんですよ?」
「…………。」
女はぼんやりと側にいた雪村千鶴の方を向くと小さく首を振った。
「でも、かなり眠そうですし…。良ければ、またご用意しますから。」
ね?
と、やんわりと手にしていた食べ物を離され、横になるよう促されると女は素直に従い、直ぐに眠りについた。
千鶴は、すっかり寝入った女に布団を掛けると膳を手に部屋を後にした。
■■■■
千鶴は今すぐこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。
主である土方に一応、彼女が食事を終え眠ったと報告しにきたら不機嫌さ全開、神じゃなくて鬼でしょーと思える程の形相をしていた。
「あ…あの、少しではありますがお食事を取られて、今はお休みになりました。」
泣きたい思いを堪えながら報告すると、土方から溜息が聞こえた。
「千鶴…悪いが暫くあの娘の世話を頼む。」
「は、はい。わかりました。」
土方の言葉に慌てて了承すると、内心首を傾げる。
いつもなら直ぐに地上に戻してしまうのに。
「あの娘なんだが………」
苦々しい口癖で彼女の生い立ちを説明されると、千鶴はみるみる涙を浮かべた。
「そんな…酷い…。」
「まぁ…そんな訳だから、恐らくあの娘はナリはお前とそんな変わらなく見えても、頭は小さな子供と考えた方がいいだろう。どうやら本等の知識を得る物は与えられてなかったようだからな。」
たまに伺うように千鶴を見てきた赤い目が思い浮かぶ。
「…わかりました。」
彼女を立派に育ててみせます!!
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