水神

豪華な、それでいて品のいい落ち着いた雰囲気を醸し出す調度品で纏められた書斎で、水神様と崇められる男は不機嫌そうに紙に筆を走らせていた。


「雪村です。失礼してもよろしいでしょうか。」


部屋の外から柔らかな少女の声が聞こえ、筆を置き顔を上げる。


「入れ。」


低く難い声音が響き渡ると、静かにドアが開き見慣れた少女が入ってきた。


「目覚めたか。」


「はい。ただ…」


¨誰が¨等という言葉を出さずに聞いた男に、千鶴も何も言わずに返事を返す。しかし、女性の様子が気にかかり言葉を濁した。
それに男は、ピクリと眉を上げ千鶴に言うように促す仕草をする。

「…もしかしたら、声が出ないのかもしれません。聞こえてはいるようなんですが…」


躊躇うように告げられた言葉に男は溜息をついた。


「面倒だな…。」


腕を組み言葉通り面倒そうに顔をしかめると立ち上がった。


「とりあえず、聞こえてるなら何とかなるだろ。」


そういって、千鶴を伴い思わぬ客人の元へと向かった。



■■■■


女は、横たわったまま動かずにいた。先ほどまでいた雪村千鶴もどこかへいき、また独り。


そして、また意識が遠退き始めたころに足音が聞こえ、また目を開ける。


すると、雪村千鶴ともう一人の人間が入ってきた。それをぼんやりと眺めていると、黒い長い髪を後ろで束ねている人間が近づいてきた。


身体が固く強張るのを感じた。 今まで感じた事のない感覚だった。


近くにいると身体が竦み上がり動かない。


恐ろしいとは思えど


不思議と怖いとは思わなかった。



Next
- 4 -
[*前へ] [#次へ]
戻る
リゼ