子供故の疑問
「…いけ、っちゃ、かちゃかちゃ、となる…ほうへ、いきな、さい…」
ゆっくりと詰まりながらではあるが、本に書かれた文字を読み上げる一の頭を撫でながら土方は優しい眼差しで見守った。
片手は繋いだまま、本を一と土方が二人で持ち分からない字があれば土方が教えるといった形で読み進めていた。
「おばあさんに、そう、いわれたのに、いちばん、うえのむすこは、しんよう、できない、と、みぎの、みちを、いって、しまい、ました。」
そこまで読むとピタリと止め、小首を傾げた。
「どうした。何か分からない字があったのか?」
一はふるふると首を振ると、土方の方を向き口を開いた。
「…どうして、おばあさんに、いわれたのに、ちがうみち、いったの?」
「あー…」
コテリと不思議そうに首を傾げる一に土方は、困ったように笑った。
一が読んでいたのは、三人兄弟が病気の母親の為に山に梨をそれぞれ取りに行く話しだ。しかし、長男や次男は途中であった婆さんを信用せず、道々でキツツキや瓢箪の忠告も無視し梨の木がある沼の主に食われてしまう。唯一、婆さんの言うことを聞いた三男が無事に梨を得られるという話しだ。
(…たぶん、¨信用¨の意味が分かってねぇんだろうな。どうすっかな…)
ひそりと頭を悩ませ、とにかく¨何故、1番上の息子が言うことを聞かなかった¨のを教えて、¨信用は後にしようと結論を出した。
「婆さんの言葉が嘘かもしんねぇって思ったんじゃねぇか?後は、自分の考えが正しいって意地があったのかもな。」
「そう…。せっかく、おしえてくれたのに…。」
まるで自分の事のように、しゅんと落ち込む一に苦笑を浮かべる。
「そうだな。」
(素直に育つのは良いことだが、疑う事を知らないのも、また困りものだな)
土方にしてみれば、息子の行動も理解できる。普通、見知らぬ人間の言葉には疑いを持つ。完全に信じきる事は出来ないだろう。
(大人と子供の差か……)
疑う事を知らない子供だからこその疑問だな。
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一ちゃんが読んでいた本は、「なら梨とり」という民話です。
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