おねだり
一は、両腕に一冊の本を抱えゆったりと廊下を歩いていた。此処に来た当初からだいぶ体力はついたようで、宮の半分くらいなら歩けるようになった。
目的の部屋につくと、ぎゅっと抱えていた本を抱きしめ、そっと中を覗く。
(……忙しそう……)
中にいる人物の様子に、あまり表情は変わらないが、しゅんと肩を落とし項垂れる。
「…ん、一?どうした。」
「……あ……。」
ビクリと肩を震わせ、そろそろと顔を上げると真っ直ぐに見てくる土方と目が合い、言葉が出てこない。
すると土方が一が抱える本に気づき、何となく用件を察し手早く机を片付けると立ち上がり一の近くに寄った。
「千鶴はどうした?」
ポンと一の頭を撫で、意識して柔らかな声音で尋ねれば、ホッと一の強張りが解けた。
「ちづる…おしごと…。あの…いっしょ、いてもいい、ですか?」
たどたどしくも一生懸命話し、コテリと首を傾げる一に土方も自然と顔付きが和らぐ。
「ああ。」
了承すると、不安そうな雰囲気から一気に嬉しげな雰囲気になるので表情がなくても意外と、気分を察する事が出来る。
手を引き長椅子に連れて行き、座らせると、今度は一に手を引かれる。
「ひじかたさん、おしごと?」
引き止めるように、じっと見つめてくる赤い瞳に苦笑するとポンポンと頭を撫でてやる。
「いや…休憩だ。」
握られた手はそのままに一の横に座ると、また嬉しげな雰囲気を感じた。
一がぎこちなく片手で本を開こうとするので、握る手を離す。すると、本を読むのを辞めたのか横に置いてしまった。一の行動が分からず首を傾げていると、また赤い瞳がじっと見つめてきた。
「…どうした。本、読まねぇのか?」
やんわりと一の結われた長い髪を梳くように撫でると、コクンと頷いた。
「て…にぎる…。」
どうやら一は手を握っていたかったようだ。
土方は苦笑しながら一の望み通り手を握ってやる。
「これで、いいか?」
「…………ん。」
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ホントはお膝だっこをねだらせたかった(笑)
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