癒し
土方が書類整理に息詰まり気分転換と、庭に出ると縁に寄り掛かりながらぼーっとしている薫を見つけた。
「何やってんだ、お前。」
普段見ない姿に珍しく思いながら声をかけると、チラリと視線を寄越すとすぐに戻してしまった。
「あれ。何かさ…癒されるよね。」
薫が指差した方を見ると、千鶴に手を引かれ庭を歩く一がいた。
「知ってる?一ってば、すっかり此処の奴らに気に入られてるよ。」
「…まぁ、いいんじゃねぇのか。本人も、安心してるようだしな。」
たどたどしくはあるが、少しずつ話すようになってきた。後は…もう少し表情がなとは思うが、欲を張って追い詰めるような事はしたくないし、気長にいく事にする。
すっと上を見上げ、今日も青々と輝く水天を眺め眉をひそめる。
「…まだ、雨は降らないようだな。」
ボソリと呟くと、それを聞き咎めたのだろう、薫が動く気配を感じた。
「まさか……降らせてやる気?」
キッと眦を吊り上げ、怒りを抑えた低めの声で問い掛けてける薫に、苦笑しながら否定する。
「そのつもりはねぇよ。ただな、こうも雨が降らねぇと、奴らがまた面倒な事を仕出かしかねねぇだろ。」
溜息をつくと肩を竦め、また水天を見上げる。
「交わした取り決めを犯し、この湖の水を勝手に使いだしたり…また生贄を投げ込んできたりな。」
昔……数百年も前の話だ。その当時の村の人間との間に、この湖の水を使用しない事を条件に、以前住んでいた村に近い湖を明け渡した。
もう、勝手な人間と関わりたくなかったからだ…。
今までは生贄はともかく、取り決めは守られてきた。
だが…
「切迫すれば、昔の取り決めなど破り兼ねねぇ。」
「……警備、厳しくするの?」
「ああ。詳しくは左之と相談してくれ。もうアイツには話してある。ただの取り越し苦労ならいいがな…」
「りょーかい。」
水天から庭に視線を移すと、しゃがみ込み花を見つめる一の姿が目に入り、何だが気分が和んだ。
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