水天

千鶴が、まず始めたのは此処が安心して生活できる場所だと教える事だった。


移動できる範囲で庭に出て、一方的だが花や木の名前を話して聞かせた。
この宮の中も少しずつ案内して回った。


一が此処に来てからの4日間、常に側にいるからか、次第に一の警戒も解かれたように見える。千鶴がいても寝るようになったのだ。その時は信頼されたようで、嬉しかった。


「一さんは、今まで見たなかで何がお気に入りですか?」


休憩としてお茶と大福を用意したおやつの時間。少し気になって、ちょんと大福を手にしている一に声をかけた。


「…………。」


千鶴の問い掛けに首を傾げると、すぐに大福を置き立ち上がる。ちょんちょんと控え目に千鶴の袖を引き、ついて来るように促す一に千鶴は笑みが零れ促されるまま庭に出る。


「お庭、ですか?」


その言葉に一は小さく首を横に振ると、上を見上げる。


「ああ…水天ですね。」


一が首を傾げ、雰囲気で何となく不思議がっているのを感じにこりと笑う。


「空だと思ってました?」


コクリと頷く一に、ますます笑みを深めると水天に目を遣る。


「此処は、湖の底にあるんです。此処の周りには膜……うぅん、そうですね…大福みたいな感じです。中に大福には餡があって外を皮が包んでます。そんな感じで此処があって、それを皮が覆ってるんです。……分かります?」


自信なさげに、へにゃりと眉を下げた千鶴に一は小さく頷く。


「えぇっと……たまに黒いのが見えるでしょう?あれが、湖に住む魚です。」


一はじっと水天を見上げている。何となくその赤い目がキラキラと輝いている微笑ましかった。くすくすと笑い部屋に戻ると二人分の茶と大福を持ってまた一の元へと向かう。


一の視線が水天から千鶴に向いてる事に、心がホッと温かくなった。


「少しお行儀は悪いんですが…特別です。」


にこりと笑い一を庭へ降りるための階段に座らせると、自分も隣へ座ると持っていた茶と大福を間に置く。


「水天を見ながら、休憩です。」


のんびり、ほのぼの


そんな空気が二人の間に流れていた。




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