本当の顔を誰も知らない

オレは隼人にジャンニーニからの調査結果を説明していた。


「高性能の盗聴器とGPSが搭載されていたって。」


もちろん会話は筒抜け。GPSには記録装置が内蔵されているので、猫が歩き回った場所も相手は把握しているだろう。


「そうでしたか。よくここまで入ってこれましたね。」


「やっぱりあの程度のセキュリティじゃ甘いってこと、だね。」


グッと握り締めた手に力を込める。改良に改良を重ねて今のシステムに辿り着いたわけだけど、それを上回ってくるとはね。


「何が目的なんでしょうか。」


コンコン――

「はい、どうぞ。」


「失礼します。」


「名前、どうしたの?」


今日は報告事項もなかったはずだけど。


「うん。京子とハルが可愛い猫が来たって教えてくれたから。どこにいるのかと思…って?」


猫という単語を出した途端、神妙な面持ちをし出したふたりを見て語尾が疑問系になってしまった。


「その、だな。あの猫には少し問題があってだな。」


「問題って?二人は元気だったって言ってたわよ?」


「いや…健康的な問題じゃないんだよ。」


『綱吉。この猫は確かに“スコープ”本部を目指してました。一点の迷いもなく。』


骸にそう言われて考えてみたら、その通りだった。スコープ内の何が、そして誰が目的かはわからないが何かしらの関係があると見て妥当だろう。


「猫はジャンニーニの所にいるよ。今は眠っているみたいだから、また後でね。」


「そう。じゃぁ椎名との打ち合わせが終わったら会いに行ってくるわ。」


そう嬉しそうに言う名前を見ながら、胸の奥に燻る予感に耳を傾ける。確証はないけど、彼女を猫に近付けてはいけない気がした。


―――――


ベルベットからの情報の一部が途絶えた。彼女の主人である男は迅速な対応だと、ボンゴレを評価した。しかし、ボンゴレに知られてしまった状況を迎えても、彼はいつもと変わらず冷静だった。


「ベルベットの秘密はひとつだけではないので、情報は常に入ってきます。」


屋敷に戻ってきていたコイツに話し掛けたら、こう返ってきた。抜かりは無いらしい。


「じゃぁ猫はまだボンゴレに居るのか。」


「はい。おそらく何者かに利用されてしまった可哀想な猫、と捉えてくれているはずですから。」


猫にスパイさせるなんてアナログなことをする人はこの時代にはいません。だから逆に警戒を解いてもらいやすい。突く隙は少しでも多いに越したことありませんから。もちろん、ベルベットの賢さを見込んでのことですけれど。


「全て計算済みってわけか。」


「言うまでもなく。」


六道骸に出くわす可能性もきちんと計算に入れていた。だから、練りに練った対策をベルベットには施してあったのに、彼は全てに気付いてしまっている。まだ味方に告げるつもりはないらしいが。


情けでもかけているつもりでしょうか?もしそうなら不本意だ。どちらにせよ…


「敵に回すと一番怖い相手、ですね。」


囁くように出てきた言葉は誰に向けたものかはわからなかった。けれど、お前にも同じ事を言えると思うぜ。


「まぁ、ほどほどにしろよ。」


「はい。」


ベルベットを調べるにしても限度があります。すべてを明かすのは不可能ですからね。


「もうすぐ時が満ちます。」


―――――


「はぁ……」


打ち合せが終わるのが遅くなり、結局猫ちゃんには会えず少し落ち込む。抱っこしたかったなぁと考えて、さらに落ち込む。猫は夜行性だから、今から行ったら会えるかもしれない。しかし、明日は早朝任務に就くから止めておいた。



眠りについて、少し経った真夜中。名前は頭を駆け巡る映像にうなされていた。


「はっ…はぁはぁ……」


汗ばむ額に手を乗せて息を整える。

何だろう?
夢にしてはリアルな感覚が体を襲った。だけど、肝心な内容は少しも覚えていなかった。


「ニャァ」


小さく聞こえた鳴き声を辿ると、そこには夜光に照らされた純白。


「あなたはもしかしてみんなが言っていた猫、ちゃん?」


「ニャン」


そうだ、と肯定するように猫は、その鳴き声を暗い室内に響かせた。


猫の主が告げた時が満ち、綱吉の漠然とした予感が現実になる。その日が近付く足音は、すぐそばまで迫っていた。
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