分かれ道で、離れ離れにならない方法


改めて気付かなくても、家族と呼べる存在は居なかった。おそらく俺はひとりきりで生まれてきて、ひとりきりで幕を閉じていくんだ。

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帰ってきてから食事を済ませ、寝る準備も終えたチビはベッドの中でぐっすりだ。あんなに上手く芝居をやってみせた奴とは思えないほど気持ち良さそうに眠っている。

「子ども扱いされるのが嫌いなくせに、眠るのは早いんだな。」

安心しきった寝顔に、弟ってやつがいたらこんな感じかと想像してみる。

「無駄な事ばっか考えちまう。」

それと、パパに見える年齢じゃないはずなのに、父親役ってのが少し気に食わなかった。

「俺まだ十分若いし…って、まぁそんなことどうでもいいか。」

良い夢見ろよ、そう心の中で呟きチビの頭を撫でてから部屋を出た。


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談話室を訪れると、ひとりで黙々とパソコンに向かう姿を見つける。

「お疲れ様でした。」

「おぅ。次はお前が行くんだろ?」

「えぇ。多少骨は折れますが、今済ませておけば後が楽ですからね。」

「だから今回は早い段階でのお出ましなんだな。」


コイツが敬語を使うのは癖のようなもので、よっぽどの事がないかぎり崩れないらしい。少なくともそのよっぽどの事は俺たちが出会って以後には起きていない。だから、敬語以外で喋ってるところを見たことはない。
過去には何度かあったらしいが、はっきりとは記憶していないらしい。

『今に必要のないものは頭から削除しますから、覚えてさえいませんが。』

って言ってたのを思い出した。


「どうしたんですか、ボーッとして。」

突然考え込んでしまった目の前の人物に話し掛ける。

「俺だって考えごとくらいするさ。」

「考えるより手と足が先に出る人が、ですか?」

「バカにすんな!」

「すみません。からかいすぎましたね。」

どうやら本当に考え事をしていたみたいですね。何を思っていたのやら。

「そういえばメイドが夜食を作ってくれたみたいなので、どうぞ。」

そう言ってキーボードを打つ手を止め、目の前の彼にプレートを差し出した。

「悪いな。これ食べたら寝るとするかな。」

「今日は疲れたでしょう?待機が長いのも困りものです。ゆっくり休んでください。」

「サンキュ。お前もほどほどにしとけよ。」

「はい、分かりました。」


今までいた談話室から出て淡い光に包まれた廊下に立つ。ひとりぼっちになった感覚に襲われそうになるが、諦めていたはずだろ?と自分に言い聞かせる。さっきもらったプレートを持つ手にも自然と力が入る。

もう誤魔化しきれない、と悟った。


ふたつに道が分かれていても、どちらかしか選べないわけじゃない。二本道の間に生い茂った草を掻き分ければ、真ん中に道が生まれるかもしれない。だったら俺は真ん中をとる。離れなくて済むなら、草で切り傷を負ったとしても痛くなんかない。誰とも離れたくなくて、同じ答えを選んでくれる未来を望んでる。最初からひとりだったはずなのに、今はきっとひとりじゃ眠れない。

君が俺を弱くした、なんて言わないさ。俺は自分で勝手に弱くなったんだ。強くなるために、弱さを身に宿した。

間違ってるって怒るか?だけどな、俺にしてみればどれも正解に見えちまうんだ。だから選んだ答えが正解なのだと思うことにした。例え望まない結末になっても、自分で選び取ったものにはきちんと責任を取る。

だから……
お前を覚えたままでいる俺を許してほしい。


どうかどうか今宵こそは夢の中で会えますように。隣で君が笑っていてくれますように。

――夢の中でくらい、逢いに来てくれてもいいだろ?

時間だけじゃなくて、俺自身も狂ってしまった。
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