10.涙の温度。(栗山+城山)
「何か商売でもしようかと思いまして」
一ヶ月近く、ふぬけていた男は何の脈絡もなく、そう云った。
「…何のだ?」
「売買をしても良いし、運送をしても良い。何も決めてはいないが、何かをしようと思いまして」
「そうか。…漸くだな」
云うべきか迷って、でも結局、漸くだと付け加えた。
「漸くですよ」
城山は呟く様に云って、その視線を落とした。
「…俺が、ふぬけてたら相馬とか野際が俺を怒りに来るんじゃないかって思ったんですけどね。ちっとも、怒りに来ないので…」
「怒りにって…」
おいおい、相馬とかって死んだヤツの事だろ?
「夢に…夢に出て来ないんですよ」
あぁ…夢にか…。
「だから、まぁ逆に働いて働いて働いたら…働き過ぎだって怒られるのを待ってみようかと」
どっちにしろ、この男は待つのか。
待って待って、飽きるくらいに待って、いつまでもきっと待ち続けるんだろう。
けど、どうせ待つのなら…。
「どうせなら、程々に働いて褒められようとか、そんなんにしとけよ」
苦笑混じりに云ってやれば、元・組長はハッとした様に顔を上げた。
俺の目と、視線が合う。
その目の奥の色が、ゆったり揺れて、ぶれて、そして色を変えた。
道が分からない子供の様な目をしていた男は既に、そこにはいない。
「褒められるなんて、難しいですけど、男としちゃ怒られるより良いですよね」
「そりゃあ、そうだろ」
「はい、有り難う御座います」
何に対する礼かなんて尋ねないまま、俺は城山の傍を離れる。
どうして俺のボスは、この男じゃないんだろうかと詮無き事を思った自分を見せられる筈もなかったので。
※※※
…うーんっと、まぁ私、栗山さんも好きなんで、いちおー栗山さん目線のつもりで書きました。
相変わらず、城山さんは生きてました説定をナチュラルに盛り込んでます。
色々、雰囲気だけで押し切ってる感が拭えませんが、諦めてください(笑)。
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