あの日の勝利宣言は


《雨音つるぎ より》



可愛いだなんて言われた事無いし、言って欲しくもない。

「ん…」

冷えたアイスに口付けながらぼんやり思った。

【「お前って本当にあの鏡音リンなのかよ?ギターの相方としては申し分ねぇけど、もうちょっと可愛げあってもいいんじゃねーの?」】

鏡音リンだから可愛くあれ、なんてそんな定義を押し付けられるのは御免だ。

カッコいいと言われる事に意義を感じる鏡音リンがいたっていいじゃない。

「…はぁ…」

沸々と沸き上がる相方への文句を心中だけで抑えて、アイスを食べる事に専念しようと思った瞬間…

「あっれー?黒ちゃん、どしたのこんな所で黄昏ちゃって。」

「…その呼び方やめてくれない?」

視界にチラつくクリーム色のブレザーと胸元に目立つ赤いリボン、金色の髪と私とは色違いの大きな白いリボン。

「蘇芳ちゃんには黒ちゃん呼び許してるのに?」

人の揚げ足を掬い取って楽しそうに笑う顔が憎たらしい。

「別に。あの子が勝手に呼んでるだけよ。」

「黒ちゃんってば意地っ張りだねぇ。あ、アイス食べてるの?私も買おっと。」

自販機に向き直って”どれにしよっかなー”なんて笑ってるその子の前に食べかけのアイスを突き出して一言。

「あげる。」

「わーお、食べかけのアイス寄越して随分な態度ですねー。ジャイアニズムですかー?」

「いらないなら捨てるからいいわ。」

蘇芳とはまた全然違う、人を小馬鹿にした様な溌剌とした喋り方に若干ウンザリして、思わずため息をつき、背を向ける。

そしてその手の上で溶けかけた棒アイスをゴミ箱に捨てようと少し動かしたら、ポロッと小さなかけらが指先に落ちてヒンヤリとした感触が広がった。

「あ…やだっ…後でベタベタに」

「いらないなんて言ってないでしょ?」

「えっ…」

慌ててどうにかしようとした瞬間、耳元で囁くような甘い声が聞こえて、手首を掴まれたと思ったら、指先の温度が生暖かく変わっていく。

「っ…!?」

「ん…」

驚きで声も出なかった。

その子…スクールウェアは後ろから私に抱きつくような体勢のまま、私の指先とアイスを舐めているのだから。

「ちょっ…!やめっ」

「んー…あんま動くと今度は衣装に付いちゃうかもよ?」

「…だから、黙って舐められてろって言いたいワケ?」

「んふふ、美味しいなぁ。黒ちゃんのゆ・び。」

ムスッとしながら、言うとスクールウェアはクスクス笑ってアイスを完食したかと思うと、今度は私の指をしゃぶり始めた。

これには流石に黙っていられない。

「ちょっと…もういい。」

「んっ……えぇー…これからだったのに。」

何がこれからなんだか…。

でも、なんとなく負けた気もしてくる。

あの子はすごく余裕綽々ってカンジで、私は多少なりとも慌てていた。

どちらが勝者かとなれば、現段階では完全に向こう。

それがすごく癪に障る。

いつだったか相方の青が”お前って妙な所で負けず嫌いだよな”とか言ってたっけ。

そんなこんなで、食べ終えたアイスの棒をスクールウェアに押し付けた後…

「その挑戦、今度ゆっくり受けてたってあげるわ。」

スクールウェアにしゃぶられた指をペロリと舐めあげてニヤッと笑った。

「わーお…なんかよくわかんないけど、ワイルドだね黒ちゃん。そーゆートコすっごく好き…。」

すると、向こうも何かに火が点いたらしく、ニンマリ笑って何故か私の肩を掴む。

「でもぉ…」

「っ!?」

そして、何事かと逡巡する暇も無く、唇を奪われた。

一瞬で離れたスクールウェアはすごく妖艶な微笑みをして、唖然としたまま動けない私に一言言い放った。

「あたしが勝つよ。この恋愛(しょうぶ)。」

「な…に言って…」

「んじゃ、今度はあたしの部屋でゆーっくり…しよっか。じゃあねぇ。」

身を翻し、ヒラヒラと手を振って去っていくスクールウェア…もとい会長を、あの時の私はポカンと見つめるしかなかった。



…そして、現在。

「くぅろぉちゃぁん、バテんの早すぎー!」

「だ、だって…!もっ…無理…!絶対無理…!!」

結局、私は恋愛(しょうぶ)に負けた。

優劣的な意味で。

「大丈夫、大丈夫。まだいけるよ黒ちゃんなら!」

「バカバカ!もっ…やめっ!会長のバカァァ…!!」

「あの…騒々しいので徒競走ならグラウンドでやってもらえませんかね?」

ただ生徒会室で会長と執行部の手伝いをしていたハズだったのに、いつの間にか会長とシャトルラン対決をする事になっていた。

「白くんお堅いなぁ。いいじゃんいいじゃん!生徒会室でシャトルラン!意外と楽しいよ!」

「はっ…はぁっ…!な、なんでそ…な元気なの会長っ…はぁ…!」

走りながら笑ってそう言う会長は、チートでも使っているのではないかと思う程タフ。

いや…あの…夜の件で会長の体力が無尽蔵なのはわかっていたけれど…。

「ふっふーん、日頃から仕事しないスクジャくんを追いかけ回してるからね!」

《バンッ!》

「おっ!何々シャトルランしてんの!?俺もやるー!」

なるほど、スクジャが原因か…と思っていたら噂をすればなんとやらで、勢い良く扉が開き、スクジャがやってきた。

「おお!スクジャくん!長年にわたる決着、つけるわよ!」

「ん?なんかよくわかんねーけど受けてたつぜ!」

「キミ達っ…!出て行ってくれないか…!!」

「おっ!執行部も参加すんのか!負けねーぞ!」

何故か意気投合しているらしい会長とスクジャは、脱兎のごとく走り出し、ついにキレた執行部が書類をほったらかして2人を追いかけ始める。

《バタバタバタッ!ガシャーン!パリーンッ!》

《ドタドタドタッ!ガンッ!グシャッ!》

《バンッ!ビリィッ!》

悲惨としか言い様の無い生徒会室の荒れ具合を見ながら、きっと後で全員トラッドに正座させられて叱られるんだろうなぁ…と思いつつ、ドアを開けて戦線離脱。

…私は知ーらない…っと。

まぁ、そんなこんなでバタバタした日々を過ごし、会長に弄ばれながら私は過ごしている。

とはいえ、このままでは本当に会長の言いなりだ。

「イケリンも形無しだ…なーんて言われたくないものね。」

仕方が無いので、家に帰ったらギターを弾きながら、今後の身の振り方でも考えよう。





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主催としての感想はトラトラCPの小説の方に書き込んでおりますので、こちらではその他について後書きを添えさせていただきます。


さて、突然ですが、私はウェア黒ちゃんものすごく好きなCPなんですよ!

そもそも1番初めに書いたリンリンがウェア黒ちゃんでして!!

個人的な設定としては、浮気性なウェアちゃんと、クールだけどウェアちゃんの事になると…みたいな黒ちゃんのペアが好きなのですっ…!

と、まぁいくら嫁CPとはいえ、ゴリ押しだけしてたら「なにこの人…気持ち悪い…」と言われてしまいそうなので、違う話題もしましょう…w


他の作品の中でもそうなのですが、私の作品内ではCPの2人だけ以外にも必ず何人か出てきてしまったりしているので、どうしても糖分が足りないバタバタした話になっている気がします。

今回、他の参加者様の作品を拝見して、改めて自分に足りないモノが見えた様な気がしております。

この経験をバネにして、またちまちま駄文ながら綴っていけたらいいなぁとボンヤリ思いつつ、この後書きを閉めたいと思います。

それでは、最後まで読んでくださってありがとうございました!!



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