「兄さん知ってる?」
夜遅く、照明の小さな明かり一つを頼りに本を読んでいた。コーヒーの入ったマグカップを二つ持ったアルフォンスが部屋に入ってきて、それを受け取ると同時に尋ねられた。
「七月七日は、七夕って言うらしいよ」
「たなばた?」
聞いたことのない言葉に首を傾げる。何かのイベントだろうか。こっちの世界では有名なんだろうか。あの人は知ってるんだろうか。
「そ。何か日本って国の文化らしくて…」
楽しそうに話しを始めるアルに、心が明るくなる。でも、そのアルの笑顔は、俺を元気付けようと見せている表の表情。そんなに無理しなくてもいいんだよ、アル。
「―…で、七月七日だけ、織姫と彦星は会えるようになったんだって」
「へぇー。そういやアル、その話しは誰から聞いたんだ?」
「ヒューズさん」
「…なるほど」
なるほど。あの人なら色んな事知ってそうだもんな。実際、この話しが渡ってきた日本は、この国と深い関係を結んでいる。文化が伝わっても不思議ではないだろうな。もしかしたら、あっちの世界にもあるんだろうか、七夕。
「早く二人が会えるといいなぁ」
「そうだな…」
実らない思いは織姫と彦星に預けて、捨ててしまえばいいのに…なんて。こんな情けない俺を見たら、アイツ笑うだろうな。心の隅で、本気で織姫と彦星みたいにいつか会えるって信じてる俺は、まだアンタの恋人に相応しいんだろうか。それより、俺はまだアンタの恋人なんだろうか。なぁ、教えてよ。ロイ。
―――――
「兄さん見て!星が綺麗…」
空高くに流れる星の川。あんなにキレイな天の川が二人を引き裂いているなんて、誰が思うだろうか。
「ホントだ…また来年も見たいな」
「そうだね。そういえば会えたのかな。織姫と彦星」
「会えたんじゃねぇか?きっと」
きっと会えた。でも、俺とアンタは絶対会えない。こんな事信じたくないけど、でも、もし、願いが叶うなら。
最後まで、アンタの恋人でいたい。
伝えたい。
会いたい。
愛してるから、愛してほしい。
だけど今は、ただアンタも同じ事を思ってくれていると信じているだけ。それでいい。だって、俺たちは繋がっているから。
心の中で。ずっと。