私と猫と彼と

猫耳+尻尾兄さん。まだ子供設定。優しい気持ちをコンセプトに。





【私と猫と彼と】


朝起きたらエドワードがいなかった。ベットの上には私だけで、お気に入りのクマのぬいぐるみも無くなっている。どこに行ったのだろうか。
私は朝だと思ったが、宮に置いてある目覚まし時計を見てみると十時を軽く越していた。お腹が空いて降りたのだろうか。おそらく食パンか昨日のプリンの残りを食べているんだろう。半分だけ食べて、そのまま寝こけてしまったから。
でもクマまで持って行かなくてもいいだろうと思う。
“彼”には日中私が仕事でいないときの留守番のお供や、夜残業でなかなか帰れないときに、エドワードと一緒に寝てもらったりしている。“彼”は部下であるハボックがエドワードに贈ってくれたもので、エドワードはもちろん、私としても大変重宝している。一時期、帰ってきたら泣きながら一人で寝ているか怒って玄関で待っているかのどちらかの時期があって、相談したところ、「エドワードにも友達とか必要っスよ。まだ子供なのに日中一人じゃ寂しいに決まってますって」と言われてしまった。孤児院育ちの私ならすぐに気が付いて当然な事なのに、なかなか察してやれなかったのは、やはり今まで通りこしてきた道が私をそういう風に形作ってしまったからだろうか。

エドワードに出逢って、初めて優しい人間になりたいと思った。『優しい人間』というのがどのような人の事を指すのか、その定義が私には分からない。薄く淡い記憶の中にある、手を繋いで歩いたあの人が、私の中にある『優しい人間』なのだろうか。ただ、今はエドワードを幸せにしてやれる人間になることで、それが叶えられると信じている。少し昔の私では考えられなかったことだ。

休みの日くらいは思いっきりエドワードを甘やかしてやりたいと思っていたのに、午前中があと二時間もしないで終わってしまう。しかも早く起きたなら私を起こしてくれたらいいのに、日曜日までもクマ。クマと一緒に降りていってしまった。これは結構寂しいものだよ、エドワード。

その“彼”との出会いだが、ハボックはわざわざ家まで“彼”を連れてきてくれた。そのことを私は事前に知っていたので、エドワードには何も言わず一緒に本を読んだりしていた。すると突然チャイムが。「エドワードにお客様だよ」と何も理由も話さずに言うと、驚いた顔をして玄関へと走って行った。勢い良く扉を開けると、ちょうど彼の目線に一匹のクマが待っていた。もうエドワードは一目惚れ。ハボックと、後ろにいた私それぞれに、とびきりの笑顔を見せると、嬉しそうにクマを抱いて耳もピンと立てて飛び回った。するとハボックが、「な、大将。大佐と同じくらいハンサムだろー?」とふざけたことを言った。するとエドワードは「おー!」と元気に返事をする。まてまて、二人とも私とそのクマを一緒にする気かね、…と言ってやりたかったが、無邪気なエドワードを見るのは久しぶりだったので後でハボックだけ叱っておいた。



布団を直して階段を降りる。リビングはひんやりとしていて、でも窓からいっぱいに採光した部屋は少しずつ温もってきていた。どうやらエドワードがカーテンを開けてくれたらしい。さて、そのエドワードはどこにいるのやら。


いたいた。出窓になったカウンターの上で小さく丸まり、窓の方を向いて寝てしまっている。彼の腕の中からちらっと見える茶色いのは例のハンサムベアー。でもいくら君だからって、陽の光に艶めくエドワードの金色の毛並みには勝てないだろう。ただでさえ白い肌も一層透明感を増している。

私はその美しく透き通った、海底に差し込む水面からの光の中のような空間を、いつまでも残しておきたいと思って、電話の横に置いてあるカメラを取った。エドワードが起きてしまう前に、シャッターを幾度も押す。
このカメラはヒューズに見立ててもらったものだ。子供を撮るのは楽しくて仕方がないと言っていたヒューズだが、確かにその通りだった。

はたはた、と可愛らしい耳が叩いた。すると尻尾が揺れ、少し眉を寄せて「んー」と背伸びをする。おまけに大きな欠伸を一つ零すと、エドワードはゆっくり瞼を開けた。

「おはよう、エドワード」

「んー…おはよう。お腹すいたぁ」

目が覚めた途端これか。でもまあ仕方ないだろう。十時をとっくに回っているのだから。すぐに簡単にブランチを作ろう。
右手で“彼”は離さないまま、左手で抱っこをねだってくる。抱き上げてやるとごろごろと喉を鳴らすようにして、頬を寄せてくる。でもこのままでは料理もできないのでとりあえずソファーに降ろすと、すぐさま飛び降りて足にしがみついてくる。もちろん“彼”も一緒だ。

「こらこら、お腹が空いたんだろう?このままじゃ作れないじゃないか」

「ロイが早く起きないのがいけないんだ」

「ならエドワードが起こしてくれたらよかったのに」

この一言がいけなかった。

「ロイ昨日、すっごい疲れてるって言ってたじゃんか。だから起こしちゃだめだって、なのに構ってくれないなんて、ばーか!」

言葉の不十分さは彼が本気な時の証拠。私はまた、エドワードはただの気まぐれで行動したのだと思ってしまった。自分のどうしようもない愚かさに腹が立つ瞬間だ。

「ごめんなエドワード。でもエドのおかげで沢山寝れたから、もう疲れてないよ。だからその分、今日は夜更かししよう」

「夜更かしっ?」

途端、エドワードの目が輝く。いつもは寝る時間を守るようにさせているのだが、今夜は特別だ。ずっと前からしたいしたいと言っていた秘密基地ごっこをしよう。実はそのために今日は懐中電灯も用意してあるのだ。

「そう。だからご飯食べて、日曜日の掃除をして、買い物に行って、夜に備えなければな」

「おー!」

これ。これだ。私の大好きなエドワードの笑顔。
初めは、この子がこんなにも表情豊かだとは思ってもいなかった。泥まみれで見つかった彼の瞳には暗闇しか映っていないように見えた。だがしばらく二人で何も話さずに見つめ合っていると、不意に琥珀の中の湖が溢れ出して、彼の頬をきらきらと濡らしていった。私はその瞳の奥の方に秘められていた強さを信じることにした。エドワードはまだ、研究所で起こったことを忘れてはいない。たまに夢に見ているようだ。でもそれを決して口に出そうとはしない。私もただひくひくと震える背中を摩ってあげるだけ。エドワードが、強くたくましく、優しい子に育つように祈りを込めて。

早くご飯を作ってと急かされ、卵を取り出そうと冷蔵庫を開けると、「プリンも!」とソファーから大きな声がとんでくる。「はいはい」と返事をし、ふとエドワードの方を見てみると、動物達の探検隊のお話の本を読み始めていた。最近は、文字が沢山書いてある本も進んで図書館で借りたがるエドワード。大好きな“彼”と一緒に、今夜のシミュレーションでもしているのだろうか。

わがままで健気なエドワード。もうしばらく私と一緒に、愛しい金猫の、明るい未来を照らしてくれるようよろしく頼むよ。彼。




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彼「了解した」

微笑ましさが伝われば嬉しいです^^*

2011.02.22 repose/ちくわ

リゼ