「special 3 three」第一弾


special 3 three ぷち企画

管理人が調子に乗りました^O^(すみませ…orz
今年は 0601 0618 0810 この3つの記念日のフリー小説を、繋げて一つの長いお話にすることにしました。
→ちゃんと予定通り企画を進めることができず、本当に申し訳ありませんでした。

ロイとヒューズの士官学校時代のお話なんですが、ちゃんとしたロイエドです多分←
(※今回はおにゃのこエドです)



今となっては、こうして彼女の前で笑顔で話すことができるが、その当時はあの
子の事を思い浮かべるだけでも辛くて、できるだけ他のことを考えようと努力し
ていた自分。あまりにも悲痛で、最後にあの子を見つけた場所は、今はもう何か
他の建物が建っていて側を通るのも何ともないのに、以前はあの姿が鮮明に脳裏
に浮かんで胸が締め付けられるようだった。

「で、それから?」

興味津々に続きを催促する鋼のの前に駅前のショートケーキを載せた皿を置き、
私もモンブランと一緒に彼の向かいに座った。艶のあるマロンを先に食べてしま
うのが私流。大きな苺はなるべく最後までとっておくのが彼女流。

「私とヒューズでこっそり飼うことにしたんだ。寮官に見付からないように、餌
入れなんかは全部ベットの下に隠してたな」

「へーえ。そういや、そいつの名前は?」

彼女の頬についた生クリームを指で示してやる。少し慌てて彼女はそれを左手で
探ったがなかなか指先はクリームにたどり着かず、仕方なく私が掬ってやった。
その甘さを舌で味わいながら笑いを含み言った。

「まあその辺は追い追いね」

「えー気になるじゃんか」

「はは、まあ紅茶が冷めないうちに話してしまおう」

昔から変わらない駅前の味に、あの日の太陽の心地ちよさを思い出しながら、あ
る年の夏の話を始めた。そう、それは今から10年程前――





今はもう使われていない旧寮棟と、訓練用グランドの間にある大きな樹。その幹
にもたれ掛かって過ごす昼休みは最高だった。特に猛暑の続いた夏の日には毎日
のようにそこへ行った。建物のちょうど影にあたるし、植物の傍で浄化された空
気に包まれていると熱苦しい感覚はどこかへ行ってしまう。

なーん

薄い意識の中、微かに耳に入った小さな鳴き声に私は目を覚ました。次第に大き
くはっきりとしてくるその声に辺りを見渡す。

「ああ、そこか」

運動場のフェンスの破れた部分から黒い子猫が出てきた。首輪はしていないから
飼い猫ではなさそうだ。
逃げるだろうなあ、と思いつつも私は立ち上がり近寄った。しかし逃げようとす
るそぶりは一切ない。人懐っこい猫だ。そんな簡単な納得をしながら距離を縮め
ていった。

ドサッ

「え……」

途端、猫が横たわった。倒れたのだ。一秒程驚きに時間を盗られたが、急いで駆
け寄る。弱々しい浅い息を繰り返し、必死に小さな黒い体を上下させている。前
脚が乾いた土の上でどうにか身体を起こそうと一生懸命動いている。
こんな陽射しの強い場所ではいずれ死んでしまう。何か食べる物も必要だ。遠く
からは生まれて少しも経っていない子猫のように見えたが、本当はただ痩せ細っ
ていただけであった。

「しっかりしろよ」

優しく抱き抱え、誰にも見付からないように図書館の裏を通って私の部屋のある
東棟へ走った。三階にある部屋の窓に向かって、外から梯子を錬成する。地面に
指で描いた錬成陣も忘れずに消した。上まで登り、鍵の閉まった窓ガラスをどん
どんと叩く。隣人に気付かれないか心配だが、おそらくルームメイトがベットで
寝ているはずだ。

カーテンが開くと、二階の窓の向こうに私がいることに驚いた奴の顔があった。
寝起きの頭をフル回転させながら理解しようとしている。とりあえず開けろと鍵
を指差す。ああ、と思い出したかのように奴は急いで窓を開けた。

「ど、どうしたんだよロイ。何で窓から……」

「しーっ、早く閉めろ」

「えっちょ、ロイ?」

「早く!」

訳の解らないまま、ただ私の指示通りに部屋中の鍵を閉めるヒューズ。私はその
間にタオルを引っ張り出し、その上に黒猫を寝かせた。風呂は、餌は、水は、ど
うすればいいのだ。

「ボロボロじゃねえか……とりあえず水だけ飲ませて寝かせてやれ。暑さで参っ
てるみてえだからな。ある程度元気になってから餌をやって、身体は一先ず濡れ
タオルで拭いてやろう」

どうやらヒューズの方がしっかりしていたらしい。あたふたと困惑ばかりしてい
る私に、コップに水を汲んでこい、と指示を出す。コップを渡すと傾けるように
して上手く猫の口に飲ませてやっていた。少しホッとしながら濡れタオルを準備
する。

「ロイ」

「何だ?どうした」

真剣な色を含んだ声に、慌ててヒューズの元に駆け寄った。受け取ったタオルで
猫の顔を拭きながら

「こいつ、左目をやられてる」

「え…」

多分、虫か何かだろうな。可哀相に…とヒューズは続けて言った。
見えない、という事なのだろうか。
私はただ、優しそうな表情で闇夜の色をした身体を丁寧に拭くルームメイトの手
の動きを見守るしかなかった。



リゼ