ジグソーパズル

俺はジグソーパズルが好きだった。まずは角を4つ見つけて、一辺が真っ直ぐなピースを横に横に繋げて、枠を作る。そこから中へ中へと組み立てていくのだ。

5歳ぐらいの時、一人でジグソーパズルをやっていたらいきなりアルフォンスが入ってきた。ドアが開いた拍子に微かな風が生まれ、ピースがいくつか飛ばされた。俺はせっかくあともう少しで完成する!ってところで邪魔をされた事に怒りと悲しみがごっちゃになって、泣きながら母さんさんの元へ走ったんだ。

その後、無くなったピースを探したけど、見付からなかった。目の無い未完成の茶色の犬は、今はもう灰となり、空へと散った。



この心の隙間は一生埋まることはないだろう。否、埋めてはいけない。そこに彼がいた証があるのだから。
目の前に立っている偽物の、なのに形がぴったりのピースは、決して使ってはいけない。二種類のジグソーパズルをごちゃまぜになんかしちゃいけない。後で分けるのが大変じゃないか。無くしてしまったのは自分のせいなんだから、諦めよう。

「やあ、こんにちは」

「こんにちは」

駄目。駄目。手を伸ばしては駄目。違う。あの人じゃないんだから。違う。分かってる。でも…
横にいるぐらいは、許される?

「高いなあ…林檎一個でこんなにか…」

『君は林檎が好きだろう?沢山買って帰ろうか』

トランプに入っている真っ白なスペアカードに、誰かが精巧に書き写したかのような、容姿。

「もう一つ、おまけしてくれないだろうか?」

『鋼の、君に一つおまけしてくれたぞ?』

色んな場所で色んな言葉囁いてくれた、世界にたった一つの、忘れたことのない最愛の人の聲。

「ありがとう。ほら、どうぞ」

『ありがとう。ほら、どうぞ』

この感情は、罪だ。



この世に俺が愛したロイ・マスタングは一人しかいない。
もう会えない。一緒に過ごせない。キスも出来ない。抱きしめ合えれない。
でも、思い出がある。かけがえの無い時間はもう進むことはないけど、失うことだってないんだ。

せめて、あなたを想い続ける事だけは許して下さい。
だから、あなたにそっくりな彼と話をさせて下さい。
大丈夫、あんたみたいに浮気なんて事はしないから。

お願い、探さなくてもいいから、ずっと好きでいて。



―――――



ちょっとしたおまけ






私はジグソーパズルが嫌いだった。バラバラになった物を見るより、完成した美しい絵の方が好きだからだ。
でも君と出会ってから、少し好きになったかもしれない。
家に帰って、一緒に楽しめるように。かつ彼が好む頭を使う物といえば、これしか浮かばなかった。
出来たら赤い額縁に入れて壁に飾ろう。そうだな、あの時計を外してそこに掛けよう。そうすれば、彼の作った料理を食べながら鑑賞できる。そんな未来を想像したら、苦手だったパズルもやる気になった。多分それは、横でエドワードも一緒にいたから。二人で笑いながら夜遅くまでジグソーパズルに熱中した。

「ああ、明日持っていく。机の上の書類は全て処理済みだから持って行っておいてくれ。それが終わったら君も上がってくれたまえ。それじゃあ」

白い壁から響く秒針の音。階段の三段目に置かれたまんまの箱に入った赤い額縁。そして机の上で置き去りにされたいる未完成のジグソーパズル。

「…意味が、無い」

君と一緒じゃなきゃ、意味がない。あともういくつかで出来上がる有名な絵画は、目が無い。
一応このままにしておこう。勝手に一人でやったら君は怒るだろう?だから、待ってるから帰っておいで。

君という大切なピースが欠けた今、私の人生はバラバラなんだよ。


リゼ