ある日、一人の少女はいつものようにその身に似つかわしくない厚さの本を深い林の奥の木陰に座って読んでいた。

彼女の名前は陸朱音。彼女は珍しいことに、縹家以外から産まれた強い異能の持ち主で、陸家の末の姫であった。

しかし、異能とは誰もが持つ力ではないためか化け物=cまた、美しい容姿も相まって妖≠ネどと嫌われ、恐れられていた。

幼いながらにそれを感じ取っていた彼女は一日のほとんどを木陰で本を読みながら過ごしていた。

彼女に読み書きを教えたのは、彼女の兄、陸清雅。彼はただ一人、朱音を異能持ちと知りながらも可愛がっていた。

朱音と清雅は兄として、妹として、互いを愛し、慕っていた。――後の清雅の髪結いの技術は、一重に彼女がいたためだと考えられるだろう…。

朱音はいつも大好きな兄、清雅が迎えに来てくれるまで、林の奥の木陰で本を読んでいた。
そしてこの日も、兄が迎えに来てくれるまで木陰で本を読み、待っていたのだった。


「朱音ー!」
『!!にいちゃま!』

清雅が呼ぶ声に素早く反応し、朱音は清雅の元へと走り出した。朱音はまだ三歳と幼く、危なっかしい走りだった。

「こら朱音、危ないからそんなに走っちゃだめだって言ったろう?…ん?どうしたんだ?」

朱音は清雅の元へ走っただけで抱き着くことはしなかった。
しかし、これは皆から疎まれてきた朱音にとってはいつものこと。
…拒絶されるのを恐れてしまう、悲しい癖であった。
「朱音…?あぁ…ほら、おいで?」
清雅が朱音に向かって両腕を広げると、朱音は顔をパッと輝かせて清雅の胸に飛び込んだ。
『にいちゃま!!』
「朱音、いつも言ってるだろ?俺にはいつでも抱きついてかまわないと。」
『…ほんちょに…?ほんちょにいいにょ…?にいちゃま、朱音のこときらいになりゃない…?』
「ならないよ。俺は朱音のこと、好きだからな。」
『!わたちも!わたちも、にいちゃまだーいしゅきっ!!』
「あぁ、俺も、大好きだよ…。」
そして清雅は、朱音の頭を優しく撫でた。
まるで、嫌われるという朱音の不安を取り除くように、優しく…。



――その二年後、朱音が五歳のとき。
好奇心という名の興味によって朱音の前に姿を見せた紫仙と紅仙、黄仙を見事見抜いた。
その後、ひょんなことから三人に気に入られ、“霄おじいさま”こと紫仙からは勉強と政事についてを、“薔薇の君様”こと紅仙からは二胡を、そして“葉おじいさま”こと黄仙からは医学を教わり、学んだ。
朱音は飲み込みが早く、頭の回転が早かったため、三人をとても驚かせた、というのはまた別の話である。
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