冷たい夜に君と
魔法薬学教授
セブルス・スネイプ氏の私室にて。
ドアが小さく開き、白い腕がにょっきりと生えた。手には杖を携えており、上下に動く。そして、こっそりと影が一人分、ドアから滑り込んだ。不自然なくらい音はしない。
閉じられた寝室の扉を見つめた侵入者は、自身で防音の魔法を掛けたにも拘わらず、そろそろと行動し始めた。杖先に僅かばかり点された明かりは遠慮がちに部屋を照らす。冷たい空気に身体を震わせたアミは、ちらっと暖炉を見るが踵を返した。
しん、と静まり返った部屋の中。
流石の彼も連日の徹夜のためか寝室で寝入っているようだ。ひんやりした机に手をついて懐中時計を確かめる。
1月9日、0:00am
パチンと銀時計の蓋を閉めた瞬間、空気が動いた。首筋に触れた冷たい感覚にアミの心臓が飛び上がる。
「ひゃあッ!」
「夜這いか」
その声音には笑いが含まれており、セブルスはアミの反応を楽しむかのように冷えた手を滑らせた。慌てて振り向くと、案の定いじわるく口角を吊り上げたセブルスがアミを見下ろしている。眉をしかめた彼女は口を尖らせた。
「なんで起きるの。起きてもまた寝なさいよ!」
「……お前は何がしたいんだ」
「ドッキリ」
「は?」
「やだな。冗談だよ」
呆れて溜息をついたセブルスに、ペースを取り戻したアミがヘラリと笑う。
「明日は休み。そしてここには──」
彼女が空中で何かを掴む仕種をすると、琥珀色の液体で満たされた瓶がいつの間にか手に握られていた。
「──100年モノの『命の水』」
「ほう、珍しい」
「でしょう?一人で楽しむには勿体なくてね」
「どう?」と片手でウイスキー・ボトルを掲げる彼女の腰に手を回すと、セブルスは悪戯っぽく光るアミの目を見返して笑う。
「お前がどうしてもと言うならば」
耳元で響いたバリトンには少しの熱が込められていて、アミの頬はアルコールを飲んだときのように薄紅く染まった。
「素直じゃないね、セブルス」
手の平にキスを落としているセブルスがニッと口角を上げる。その眼差しから逃げるように視線をそらした。
「そうだ」
「?」
アミはセブルスに連れられて寝室に入りながら、たった今思い出したかのように声を上げた。
「誕生日おめでとう」
驚いたように動きを止めたセブルスに頬が緩む。これまでお互いに誕生日というものを祝ってこなかったからだろうとアミは思った。
「どうした、急に……」
「私がきみと会えたのは偶然。きみと私が生まれたのはもっと偶然で……ようやくその"偶然"に感謝してみたくなったわけ」
セブルスの瞳に写ったアミの顔は幸せそうに綻んでいる。
「嫌だった?」
「いや…ただ珍しいと思っただけだ」
アミは目を伏せた彼の頬に手を当てて、そっと唇を重ねた。啄むように何度かキスを交わすと、小さく微笑む。
「それに、たくさんイベントがあるのは楽しいじゃない」
くつり、と声を零したセブルスはアミの手から瓶を取り去った。
「お前だけだろう。自分主義め」
ほんと、捻くれてる。と呟いたアミは、抱き寄せる力に抗わず身を任せる。近づいて来る薄い唇に人差し指をあてて止めると、平坦だったセブルスの眉間に溝が生まれた。
「待って」
「なんだアミ」
不機嫌そうな声音に笑みが零れる。
「Ilove you, my dear.」
温かな体温に
ゆっくり二人の影が重なった。
冷たい夜に君と
(だいすきな君と)
Severus, HAPPY BIRTHDAY!!
And good luck to U!
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