LOVE X'mas













一月前。
校庭の片隅に一本だけ、ぽつんと立っている針葉樹を見つけた。



三日前。
迷い込んだ不思議な部屋で、自分の好みに合うクリスマス・オーナメントを見つけた。



昨日。
悪戯四人組とリリーが帰省した。






靡く赤毛を切なく見つめていたのは
私だけではない


















〓LOVE X'mas〓
















今日は12月24日。
所謂、クリスマス・イブだ。
信仰心が厚いわけではない僕だが、豪華な飾り付けや、そこから生み出される幻想的な雰囲気に心動かされない訳ではない。クリスマス休暇のホグワーツは静寂に包まれ、人気が無い。

見るものがいないのに(幾人かはいる)飾り立てられた廊下を歩くのは楽しかった。今回の休暇にはあの四人組もいないから気が緩んでいた。そうやって油断していた所を彼女に捕まったのだ。













「ヘイ!そこの坊や!」




夕食後、ぼんやりと廊下を眺めていた僕に脳天気な声がかかった。あからさまに嫌そうな顔をしたにも関わらず、アミはヘラリと笑う。




「その呼び方はやめろ」

「そう?じゃあ、私のことお嬢ちゃんって呼んでもいいよ」

「そういうことじゃないだろ」




いつものくだらないキャッチボールにアミが笑うと、白い息が宙に広がった。




「今宵、ロンリーな私達に素敵な提案がございます!」




大袈裟な身振りで腰を折り、仰々しく言うアミ。吐息が空気に消えて、アミがその体勢のまま、少し緊張感気味の笑顔で僕の反応を見ている。僕は大きな溜息をついた。それは諦めの溜息で、彼女に付き合うことを決めた合図。




「ロンリーじゃないだろ。二人なんだから」




アミはまた白い息を漏らして笑った。




「準備万端ですので、さあさあ!レッツゴー!」

「!……ッおい、アミ!」




アミが僕の手をとって、僕達は白い世界に飛び出した。




















「ああっ!!」




鼓膜を貫いた叫びに、思わずオーナメントを取り落とした。すぐに振り返り、キッと目元を吊り上げる。




「うるさい」

「これは最後!常識でしょ」

「お前の常識は僕の非常識だ」




サッとオーナメントを拾い上げたアミは、まるで僕が悪いかのように口を尖らせた。大声を聞き付けた教師が現れたら、僕は間違いなくこいつを見捨てるだろう。溜息をつくと白い吐息が闇を染めた。ちらっと、大事そうにクリスタルの星を箱に仕舞うアミを見る。


天辺に飾るそれは、よくある五芒星ではなく、雪の結晶のような星だった。綺麗にカットされたクリスタルが城の明かりを受けて煌めいている。

どうせつけるのだから出しておけば良いだろうに。アミは変な所で細かい。僕の視線に気付いたのか、キュッと雪を踏み締めながらアミが近づいて来た。




「セブルス、ちゃんとやってよ」




全く、どうして僕が。
冬に(しかも夜中だ!)何故この酔狂な友人に付き合わなくてはいけないのか。いや、変人は僕かもしれない。結局、アミとこうして雪まみれになっているのだから。

一人の時間が欲しいのに、毎回こうやって彼女のペースに飲まれていく。

足元の箱に杖を向け、小さく呪文を唱えると、夜空にホワイトゴールドのトナカイや天使が飛び交った。不必要なオーナメントを外したり、人形の向きを変えたり、全体のバランスを見たりして仕上げていく。いつしかツリーを作り上げることに夢中になっていた。




「もう少しつけても良いんじゃないか?」

「どれがいい?」

「トナカイ」




寒さで頬を赤くしながら、アミはしゃがみ込んでトナカイのオーナメントを見分しはじめる。あらわになった首筋が寒々しい。既に彼女の青いマフラーは「邪魔!」という言葉と共に投げ捨てられ、雪に埋もれて真っ白に染まっていた。一歩踏み出すと足元で雪が鳴る。白の吐息が漏れ、アミは不思議な顔をしながら僕を見上げた。




「してろ」

「いいの?」

「要らないなら───」

「暖かーい!ありがとう、セブルス」




アミはくすくすと笑って、緑色のそれに顔を埋めた。明るい黄色の瞳が三日月のように煌めく。黄玉に光が写り込んで一等星のように輝いていた。

そして、ようやくアミは満足げにクリスマス・ツリーを眺める。見えなくなった月に、僕も視線を木に移す。アミの杖が、ヒュッと冷たい空気を切り裂いた。




「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」




どこと無く弾んだようなアミの呪文で、勢いよく星が空に昇り、クリスタルのそれは頂上で煌めいた。

3メートル程のツリーには、白いリボンの付いたブルーとシルバーのメタリックなカラーボール。雪が降っているから枝に自然な雪化粧が施されていて、瓶の中では妖精が羽ばたいている。どちらかというと、かなりシックなクリスマスツリーだ。だが、城からの明かりと妖精の灯が幻想的な雰囲気をより醸し出していた。


我ながらよく出来ている。




「マグルのでも綺麗でしょ?」




ニッと得意げにアミが笑った。
考えを読み取られたことに、少しだけ気恥ずかしさを感じる。




「僕が飾ったんだから、当たり前だ」




これを飾り付けるために、こんな寒い思いをしているのだ。そうでなければ困るし、僕が手伝ったのだから当然である。

心地好い達成感に包まれて煌めくツリーを見上げていると、目の前にいたアミがくるりと振り返って僕を見た。

緑のマフラーが広がり、肩で黒髪が揺れる。




「メリークリスマス」




雪はとっくに止んでいた。
時計が音を立てて日付を変える。




「…メリークリスマス」




ただ返しただけなのに、アミは嬉しそうに笑みを零した。なぜだか僕は恥ずかしくなって空を見上げる。突然、アミが「寒い!」と叫んだ。




「今更か」

「だって、夢中だったから」





何度目かの溜息が闇に広がった。
アミはまた嬉しそうに笑った。
僕が呆れていることを分かっているなら、やっぱりアミは変人だ。




「でも、もう戻らないとね」




休暇中の見回りは緩いが、無い訳ではない。寂しげなアミの横顔に、なんだか胸がざわめいた。不思議な感情に少し戸惑っていると、「行こう」ぐいっと手を引かれる。踏み出そうとしたとき、埋もれた青を思い出した。




「ちょっ……待て、アミ!」




手に取った青いマフラーは雪でぐっしょり濡れている。




「風邪を引いたらお前のせいだからな」




それは僕も、アミも同じで。




「乾かす間、紅茶を煎れろ」




月のようなアミの双眸が驚きに満ちた。
そして、直ぐに光を湛えた笑顔に変わる。


アミはいつも楽しそうに笑うのだ。

それはとても暖かくて。







そんなアミと過ごすのは、悪くない。






「ガッテン承知!」

「なんだそれ」




思わず互いに笑いを零した。
白の吐息が、空に溶けて消えるのを見送る。







冬特有の、澄み切った夜空に
星が微笑むかのように煌めいていた。












WE LVE X'mas!


(ねえ、楽しかった?)
(…それなりに)
(そっかそっか)
(にやけるな、気持ち悪い)
(明日も一緒に遊ぼー)
(お前ってやつは……好きにしろ)




ありがとうございました!
はっぴークリスマス!'09







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リゼ