ちら見せの恋心、
黄瀬くんは、意外なほど筆マメで記録魔だ。


どこに行った。
何をした。
何を見た。
どんなものを食べた。
楽しかった。嬉しかった。美味しかった。

それを次から次へとツ○ッターにUPしている。それは彼の所属事務所が作った、所謂公式アカウントというやつ。だからそれは衆人の目に触れて、世界中に発信される。

何気ない道端の花だったり、美味しそうなカフェのパンケーキだったり。
彼の職業柄、それは瞬く間にたくさんの人にフォローされる。最初は1つずつ律儀にコメントを返していたらしいけど、あまりの多さに返すことを早々に諦めてしまったらしい。それくらい、すごい反応なのだ。
その反応の早さや多さに、やはり彼は人を自然と惹き付ける魅力を持っているのだろうと思う。…絶対に本人には言わないけれど。


「すみません、写真に撮ってツ○ッターにUPしてもいいっスか?」
ジュージューと音をたてている鉄板に乗ったハンバーグに目をキラキラと輝かせ、運んできた店員さんにきちんと声をかける。オッケーを貰って初めて料理にスマホのカメラを向けて数枚撮る姿をぼんやり見つめる。
すぐにそれを慣れた様子でUPしてからスマホをポケットにしまう時になって、こちらの視線に気付いたらしい。きょとんと不思議そうにする顔は、いつも雑誌の中でのキメ顔などより幼く見えた。

「どうしたんスか?」
「いえ、何でもないです。食べましょう」
「はいっス!」

行儀よく手を合わせてから存外綺麗な所作でハンバーグを切り分ける。そういえば、彼が入部して間もない頃にあの赤司くんが彼のテーブルマナーを誉めていたことを思い出した。
いつも騒々しいほど賑やかで、元気な彼だけれど。食事の時の所作は驚くほど綺麗で丁寧だ。

「黒子っち?食べないんスか?」

知らぬ間に、彼の手元に見入っていたらしい。ハッと慌てるが、元から変化に乏しいこの顔はたぶんあまり表情は変わらないだろう。そのことに今は少しホッとする。

「…黄瀬くんは、食べるのが綺麗ですね。マナーというか、いつだったか赤司くんも褒めてました」
「赤司っちが?!マジっスか!」

うわーとかすげーとか、そんなことを言いながら幸せそうにハンバーグを頬張って笑顔になっている。
照れくさそうなその無防備な表情を写真に撮って彼の真似をして僕もアップしたなら、いったいどうなるだろうか。遠征先で暇さえあれば彼のアカウントに釘付けになっているだろう僕の中学時代の相棒のことを、ぼんやり思った。

やっとハンバーグに手を着けて、とろりと溶けたチーズが美味しいそれを口に運んでいると、彼はさっきしまったばかりのスマホをいそいそと取り出しては何か操作していた。

「えへへ。今の、嬉しいから書き込んじゃお」

彼のスマホから、ポンッと小さな音が鳴って操作が完了したことを知らせた。きっと僕の鞄の中にあるスマホも、彼がアップしたコメントで溢れているだろう。

でも最近、気付いたことがある。

こんなに筆マメで、記録魔な彼なのに。
ただ一人のことに関しては全く書かないのだ。

僕個人に宛てては、明日デートに行く、どこに行く、楽しかった、喧嘩した、仲直りできた、意地悪された、突然優しくされたとうるさいほどにメールが来るのに。

いつもは、僅かな気持ちの高鳴りもアップする彼が、一番気持ちを揺さ振るはずの相手のことを全く書き込まない。


その理由を、今は遠い遠征先にいる彼は正しく理解しているのだろうか。



それは会えない恋人へのちら見せの恋心。

自分が今何をしているか。
何を見て、何を考えているのかを知って欲しいという恋心。

でも、彼との幸せな時間は誰彼かまわずみせたくはないという、独占欲丸出しな恋心。



「でね、その時の青峰っちの反応が……あれ?黒子っち?もう食べないんスか?」
「……はい、もうお腹一杯です」

半分以上残ってしまったハンバーグは、責任を持って彼に食べてもらおう。

ちら見せどころかだだもれの恋心に、胸焼けした責任を取って貰わなければ。




背中合わせの君と僕 様からお題をお借りしました。


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