室町時代パロG
虹村と名乗ったその男の一声で、全員が車座になっての酒宴が始まった。
赤司はまだ不満そうに俺を睨んでいたが、取り敢えずは鉾を収めたらしい。

俺、黒子、タツヤ、それに赤司とこの家に居候しているという黄瀬と青峰と紫原。赤司や黒子と古い馴染みだという緑間、虹村。緑間の知り合いの高尾。虹村の知り合いの灰崎。
さっきまで静まり返っていた屋敷の中は、あっという間に賑やかしい限りとなった。


赤司は、今の政権を牛耳る……支えているほどの名家の出である。らしい。
それがどれほどのものか、剣を極めることにしか興味がない俺にはさっぱり分からないが、目の前に所狭しと並んだ料理は文句なしに美味い。今まで食べたこともないような料理が並ぶ。量も種類も申し分ないが…いかんせん、味が薄い。そういえば、都は薄味だと聞いたことがあるが、それにしても物足りない。美味いから食うけど。

俺の大食らいを分かっている黒子が、最初からお櫃を俺の横に準備するように家人に言ってくれたおかげて、満足いくまで食える。


最初から遠慮もなくがやがやと盛り上がっている宴が少し落ち着いた頃、やっと盃と徳利を下げてタツヤが俺の隣にやってきた。
さっきからずっと紫原に捕まり、赤司や虹村も交えて話をしていた。

「タイガ、久しぶりだね。まさかこんなところで会えるなんて、驚いたよ」
徳利を差出しながら笑う顔は、最後に記憶にあるものより大人びて見える。
「それはこっちの台詞だよ。てっきり国にいるんだと思ってた」
箸を置いて盃を差し出し酒を受け、一気に飲み干してから同じように徳利を差し出す。タツヤもクイッと飲み干すと小さく肩を竦ませた。
「タイガが武者修行に出て、1年くらいしてからかな…俺も国を出たんだよ」
色々あってね。という表情は少し暗くて、俺はそうかとしか言えなかった。
「でも旅に出たはいいけど、すぐに迷子になってしまってね。路銀も底をついてしまって、仕方なく旅の一座の雇われ用心棒をしていたんだよ」

一座が寝ている昼間の時間なら自由にしていいと言われ、路銀も食事代も浮くと考えたらしい。その一座で紫原とは知り合ったと、少し憂いを含む目で紫原を見ながら話すタツヤはかつてどうしようにも抜け出せない境遇に喘ぎ藻掻いていた頃によく見たものだった。

理不尽な扱いに耐えかねた紫原が逃げ出したのをきっかけに、一座のやり方に少なからず不満を持っていたタツヤも抜けて、再び旅に出ることにした。
その矢先に知り合ったのが、堺で商売をしている虹村らしかった。

「街でちょっと因縁をつけられてね。刀を抜きそうな雰囲気だったから、抜き身の争いになる前に柄で打って気絶させたんだよ。それをたまたま見ていたシュウがいたく気に入ってね、うちで一緒に酒を飲もうと誘ってくれたんだ」

話しながらも次々と盃を干していく姿は前から見慣れたものだ。タツヤは底無しのザルだが、虹村も相当強いらしい。ただし、タツヤは次の日に残ることもないが、虹村は翌日かなり苦しむらしい…だったら飲まなきゃいいのに。

「シュウとは妙に馬が合ってね。今はシュウの家に厄介になりながら、シュウとか灰崎くん、近所の子供たちに剣術を教えてるんだ」
そう言う顔は少しだけ照れくさそうだ。

「そうなのか。色々あったんだな……今、幸せそうで良かった」
「ありがとう。タイガも、元気そうで安心したよ」
2つの盃に波々と酒を注ぎ軽く掲げると、一緒に飲み干す。ふうっと息を吐くと目が合って、意味もなく笑いが込み上げてきた。


まさか生きて、もう一度タツヤに会えるとは思ってなかった。
剣に生きると決めた以上、もう二度と郷土の土は踏まない覚悟だったし、どこかで命を落とすことになっても微塵の後悔もなかった。でも、兄弟同然に育ったタツヤに会えないことや、今では友人という括りになりかけている黒子のことを思うと…安易に命に未練はないとは言えなくなっている。それは弱さなのか……それとも強さとなるものなのか。今の俺にはまだ分からない。


ふと目を向ければ、しょっぱなから黄瀬に引っ付かれぎゅうぎゅうに抱き付かれている黒子がうんざりした顔をしている。そんなに面倒なら振り払えばいいものを、そうしないのは久しぶりに会った懐かしさが少なからずあるからだろう。
それに、ここに来てからの黒子はふだんより明らかに表情が豊かだ。いつもの5割は割り増しで表情が顔に出ている。

前に、自分には帰る国はないと言っていたけど。
そんな顔をするこの場所こそ、お前の故郷なのだと言ってやりたい。



「何だよ、そんなに強ぇのかよ?!」
黒子を挟んで黄瀬と話をしていた青峰とかいう色黒の男が、大声とともに立ち上がった。いつの間に手元に持ってきたのか、昼間に黄瀬と手合わせした時に使った木刀をビシッとこちらに向けてきた。

「てめぇ、火神だっけ?腕に自信あるんだって?いいじゃん、相手をしてやる。勝負と行こうぜ」
にやりと片方の口角を上げて笑う顔は不遜で不敵。
ただ纏う空気がガラリと変わったことに、その気を向けられた俺だけじゃなくて隣にいるタツヤまで気付いた。

例えるなら、大きな獣が獲物をじっと見定めるかのように、その目がギラリと光る。でも不思議と殺意はない。純粋に狩りを楽しむような、完全に上から見下すような態度が癇に触る。

「んなこと言って、後で泣きを見るのはお前だぜ?」
向けられた気をそのまま跳ね返しながら見上げ、残っていた飯を漬物の切れ端とともに一気に掻き込んでから立ち上がる。
途端に放られた木刀を受け取り、庭へと降りる。恒々と松明が燃える庭は、夜とは思えないほどに明るい。

「あー!ズルいっス!俺もやりたいっスよ!青峰っち、交代してー!」
「うるせーぞ、黄瀬!てめぇ、俺が出掛けてる間にこいつとやったんだろ?もういいだろーが!」
「タイガ、狡いじゃないか!自分だけ…俺も腕には自信があるんだ、ぜひ彼と手合わせしたい」
「タツヤ、お前は止めろよ。すぐ見境なくなって真剣持ち出すだろうがァ」
「室ちん、剣握ると性格変わるもんね〜」
「そうなの?見えねー」
「ふん、どいつもこいつも野蛮なのだよ」
「おいっ、緑間!俺の海老シンジョを食うんじゃねぇ!お前…そんな涼しい顔して酔ってんな?!」
「……黒子、オレは酒は静かに飲むのが好きなんだ」
「……僕もです」


賑やか、というよりうるさいことこのうえない宴は、まだまだ終わらない。




→赤司邸へGO!の第二段です(笑)

やっぱりみんなが揃うと楽しいです。


次はかがみんと室ちんの過去か、今吉さん帰還&笠松さん登場、どちらかを書きたいです!

と言って、自分を追い込んでます(笑)


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