室町時代パロD
河原で見付けた行き倒れの亡骸を丁重に埋葬し、丁寧に経を上げる。
両の手を合わせて目を閉じてやることしかできないなんて、自分はなんと無力なんだろうか。

「……もういいのか?」
「えぇ、行きましょう」

僕の横で同じように手を合わせていた大柄の男が、立ち上がった僕に声をかけてきた。短く返事をして踵を返す。
出会った頃こそ、行き倒れた人を見掛ける度に足を止める僕にうるさく文句を言っていたが、今では何も言わずに手を貸してくれるようになった。


以前彼に言われた言葉を、今でもよく覚えている。
「この国に、いったい何人の行き倒れがいると思ってんだよ?それ全部に手を合わせるつもりか?」
最もだと思う。まるで焼け石に水じゃないかと思う時もある。

でも。
「何もしないよりはマシです、目の前の事を見てみぬ振りをするよりずっといい」
そう言うと、彼はその鋭い目でじっと僕を睨むみたいに見つめてきた。
「んなことして、辛くないのか?虚しく思わないのかよ?」
その時、彼は確かに僕のほうを見ていたけど、その目は何処が別の、遠くにある暗い世界を見ているみたいに見えた。
「辛いですよ。虚しいとも思います。でも、何もしなければ更に後悔まで抱くことになる。僕の腕はこんなに細いですから、そんなにたくさんのものは抱えられません。辛さと虚しさを抱えたら手一杯で、更に後悔なんか抱えられません。ですから、せめて後悔はしないように…出来ることをやりたいんです」
そう言うと、彼はじっとしばらくこちらを睨んでからハァッと息を吐いてからやっと表情を緩めた。そしてそれっきり、彼は何も言わなくなった。何も言わずに、黙って埋葬を手伝ってくれるようになった。


「そういえば、都に行ったら宿が決まってるって…寺にでも泊まるのか?まさか、お前んち、とかじゃねーよな?」
鴨川を渡った辺りで、ずっと気になっていたであろうに、まるで今思い付いたみたいに問い掛けてきた言葉に緩く首を振る。
「僕が籍を置いているのは東国の寺ですし、僕の家は……京には、友人がいるんです。家が広いですから、1人や2人増えても何ともないんです。だから、京に滞在する時はいつもお世話になってるんです」
「黒子…?」
何気ない会話の流れで言い淀んでしまった。あきらかに不自然な話の逸らし方に、流石に気付かれてしまったらしい。こんなことで感情を揺らすなんて…僕はまだ未熟だ。
「そうだ、そのお屋敷には今、他にも居候がいるんです」
彼の声に答えず意図的に話を逸らすとさすがに顔を顰められてしまった。出会った時からつくづく思っているが、彼はなんて感情表現が素直なんだろうか。
「1人は僕が助けた人で、頼んで住まわせて貰っているんです。もう1人は、他の知り合いが預けたらしいんですけど…相当腕が立つらしいんです」
僕の言葉に、それまで不機嫌そうな怪訝そうな顔をしていたのに、一気にまとう空気がギラギラしたものに変わった。
「僕は数回会っただけですが、確かに相当な剣の使い手と見ました。それに、そのお世話になるつもりの人もかなりの遣い手です」
「そいつらの、名前は?」
「僕の友人は赤司くん。僕が助けた人は黄瀬くん、そして…もう1人は青峰くんです」
「青峰…」
小さく呟いた彼の目はギラギラと野性の獣のように煌めいた。
「そんなに、楽しみですか?」
「ったりめーだ!俺は強ぇやつを全員ぶっ倒して、日本一になるんだからな!」
そこまで言うと立ち止まり、彼はその拳を空へと突き立てた。
「っしゃー!俄然燃えてきたぜ!黒子っ、さっさと行こうぜ!」
「あっ、待ってください!火神くんっ」
叫んだと思ったら大股で歩きだした彼を慌てて追いかけ、旅の埃に汚れた黒衣を翻した。




→室町パロ第5段です。
かがみんは日本一の剣志を目指す武士。
黒子っちは有髪のまま得徳して、仏の教えを広めるためだったり苦しむ人たちを救うために在野し旅を続ける僧にしました。色々考えましたが、黒子っちはやっぱりコレかなぁと思います。うん。


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