dulce 《甘い》
#キリ番1016Hit!記念 gsさまに捧げます!
#リクエスト「青峰っちの、外面のいい加減さと内面の男前度のギャップ」

#primum amore 《初恋》
の続きですが、単品でも大丈夫です。


甘いアマイ、恋の病。

あんたとなら、二度と治らなくてもいい。

そんなことを普通に思うなんて。
あぁ、あんたも同じならどんなに幸せだろうか。


「dulce」


俺の恋人は、
ゴーマンで、ゴーガンフソンで、オーボーで、タカビシャ。

らしい。



今日は部活が自主練習の日だったから、赤司っちに断って雑誌の撮影に向かった。
まだ校庭の木々が色づき始めたばかりなのに、もう春物の撮影だなんて、季節の感覚がおかしくなりそうだ。

最近、部活にばかり時間を取ってモデルの方はかなり仕事を減らして貰っているから、今日は朝から夜までガッツリとスタジオに缶詰。今日1日で、いったい何着の服を着るんだろ。
でも、カメラマンさんもヘアメイクさんやコーディネーターさんも、よく一緒に仕事してる人たちで気心が知れてるから気持ちが楽。

スタジオのセットチェンジの待ち時間にも、差し入れのお菓子を摘みながらみんなで話すのも、顔馴染みの人たちだから楽しい。
だから、つい、今俺の気持ちの一番大きな部分を占めている事柄をポロリと口にしてしまったのだ。


恋人が、出来た。って。


「黄瀬くん、大丈夫?あんまりにも傲慢すぎでしょ。どれだけ女王さまなんだよ、その子」
「お前、私が好きだろ。だから付き合え。だなんて…傲岸不遜にもほどがあるわよ」
「しかも、部活の後に…さらに居残り練習で汗だくで倒れてる黄瀬くんを、上から仁王立ちに見下ろしながら言ったんだろ?横暴過ぎるって、ムードもなにもないじゃん」
「で、でも!優しい人なんスよ!嬉しくて泣きだしちゃった俺の頭にタオルかけて、髪をくしゃくしゃって撫でてくれて…あんまり泣くなよ、ブサイクになってるぞって言って目のトコに…き、キス…してくれて…」
「なにそれ!キセリョに対してブサイクとか!あり得ないでしょ、ツンデレ通り越して高飛車じゃない!」
「や、あの…だから…違うんス…」


当然のようにみんなが俺の恋人を、女の子だと思い込んだのを否定しなかったのが悪かったのかな。

今まで生きてきた俺の人生の中で、断突1番にドキドキな胸キュン幸せエピソードなのに…さっきからボロクソに言われたい放題だ。

確かに最近、青峰っちはあんまり部活に来なくなって…俺の何よりも大切な、一緒にバスケする時間が減ってしまった。この前だって、部活が休みだったからデートの約束をしたのに、寝坊した上にドタキャンされた。昨日は昨日で、誰もいない空き教室で一緒に授業をさぼって馬鹿話をしていたら(一方的に俺が話していただけだけど)、突然キスされてそのまま次のステップへと押し切られそうになって蹴っ飛ばしてしまった。


そんな、青峰っちと付き合ってからのドキドキな恋愛デイズをあれこれと話したのだが。

話せば話すだけ、みんなの顔色はどんどん渋くなっていく。
どうしてなんだろう。あんなに優しくて格好いい人、他にいないのに。


「……あのさ、黄瀬くんがその子のこと好きなのは分かったよ。でも、話を聞く限りだと…あんまりその子とのお付き合いはお勧めしないな。俺たちは、黄瀬くんが好きだから、大切だから言うんだよ。それは分かってくれる?」
スタジオの準備が整ったタイミングで、1番歳上のカメラマンさんが、シャッターを切る時よりも真剣な顔で力説された。


後半の撮影をしながらも、俺の頭はさっきの会話から離れなかった。
青峰っちは、ゴーマンで、ゴーガンフソンで、オーボーで、タカビシャなんだろうか…。青峰っちは…。青峰っちは…。



結局撮影は、9時を過ぎてやっと終わった。
さすがに疲れてしまって、締めていたネクタイを緩めながら長いため息が漏れる。ふと携帯を見ると、チカチカと着信を知らせるランプが光っていた。

「黄瀬くん、遅くなっちゃってごめんね。帰り、電車でしょ?俺、車だから家まで送るよ」
着替えを済ませてみんなと一緒にスタジオを出る所で、カメラマンさんが声をかけてきた。でも俺の頭は、さっき読んだメールで一杯になっていた。
「……」
「黄瀬くん?」
「えっ?!あ、えっと…いいっス!大丈夫っス!」
「大丈夫って…もう遅いし…」
「ホントに、大丈夫っス!お疲れ様でしたっ」
スタジオを出た所で、ペコリと頭を下げるとダッシュで走りだした。背中でまだカメラマンさんが何か言っていたけど、もう聞こえなかった。

スタジオの入り口にある、有名なコーヒーショップの窓際の席。
そこにいた大きな背中に、思わず飛び付いてしまった。
「青峰っち!」
「…って!飛び付くな!火傷すんだろーが!」
「うん、ごめん」
「……終わったんか?」
「うん、終わった」
「……んじゃ、帰るか」
「うんっ」
俺と顔を合わせないまま、青峰っちは残っていたコーヒーを飲み干して、のそりと立ち上がった。カップを片付けると、するりとさり気なく俺の鞄を持ってくれて、ズカズカ歩いたと思ったらドアを開けて顎で俺を促してきた。

青峰っち。
コーヒーで火傷するなんて嘘っスよね。湯気なんか、もう出てないっスよ。
いったい何時から待ってたんスか?
俺、今日は撮影で遅くなるって言ったけど、時間なんて言わなかったっスよね。ここの場所だって、一応メールしただけで…返信だってくれなかったじゃないスか。

「ごらっ、黄瀬!たらたら歩いてんなら、置いてくかんな!」
ついついニヤニヤしていたら、つい歩くのが遅くなっちゃったみたい。
チラリと振り返りながら不機嫌そうに低い声で怒鳴るけど、その足並みはちゃんと俺を待っていてくれてるのを、俺は知ってるから。
そのさり気ない一つひとつにドキドキしてしまい、俺たちの後ろでカメラマンさんたちが話していた言葉が聞こえなかった。
「あれ?あれ…黄瀬くんの友達…お兄さんですかね?」
「もしかして、ここで黄瀬くん待ってたのかな?」
「待ってたって…今日は、2時間以上も終了時間押しましたよね?」
「しかも…さり気なく鞄を持ってあげたり、ドアを開けたりしてましたよね」
「はぁ、いいなぁ。あんな男が彼氏だったら最高なのに…ちょっと顔付きが悪いけど」
「確かに。黄瀬くんも、あんな人を選べばいいのに…」



俺の恋人は、
ゴーマンで、ゴーガンフソンで、オーボーで、タカビシャ。


でも、口が悪くて、約束を守らなくて、エロ魔神で、そして…誰よりも格好いいのだ。


甘いアマイ、恋の病。
こんなに幸せな恋が初めての恋だなんて…俺はなんて幸せなんだろう。



end.....

→青黄

gsさま、すみません
何でこうなったんだろう…リクエストに全く叶えられなくて…今すぐ穴を掘って土下座したい。
本当にすみません。

お気に召さなければ、どうぞ突き返して下さい!


dulce
ラテン語で「甘い」
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