miraculum 2 【驚くべきこと】
#青黄 パロディ


黒子っちと、そしてあの時の彼と衝撃の再会を果たしてから、もうすぐ一年がたとうとしていた。
あの日から、俺はほぼ一週間に一度その店へと通っていた。

営業の仕事は、意外と忙しい。
担当エリア内の書店を周り、新しく発売される本を目立つ場所に並べてくれるように売り込む。ついでに、既刊本の売れ行きデータを元に、そのお店の客層や得意分野から次に売れるであろう本をお薦めする。
販促グッズを配り、キャンペーンの案内をして、ついでにそのお店で売れている他社の本をチェックする。
もちろん、世間話をして担当者と親しくなることも忘れない。


俺が担当しているのは約50店舗。
これが多いのか、少ないのかわからない。でも、店を回る以外にも売り上げデータを分析したり、それぞれのお店の戦略を練ったりとやることは山のようにある。

だから、一つのお店にお伺いするのは、せいぜい1ヶ月に一回くらい。


でも、気付けば俺の脚は、あの本屋へと向かっている。

「黄瀬くん、いらっしゃい」
「黒子っちも、お疲れ様っス!」
今日は珍しくレジに入っていた黒子っちが、顔を上げて無表情に言った。
最初の頃こそ、また来たんですか。用事はなんですか。随分と暇なんですね。と遠慮なく冷たい視線と共に言っていたが、さすがに最近は呆れたのか、慣れたのか普通に迎え入れてくれる。

透明なガラスみたいな目で俺を見る黒子っちには、俺がどうしてこんなに頻繁にやってくるのか、分かっているんだろうな。

「差し入れにマフィン買ってきたっスよ、一緒に食べようよ。えっと…青峰っちは?」
ニコリと笑いながら手に持っていた紙袋を上げてみせ、まるでついでのように俺はここに来た本当の目的を口にした。
「……休憩中です。あと15分もしないうちに戻ってくると思います」
じっとこちらを見てから、淡々とした口調で言った。その間にあった僅かな沈黙の意味を考えるのが怖くて…じゃあ、在庫と売れ行きチェックをしてくるっスね?と言って棚の方へ姿を隠した。


一年もの間。
何度聞こうと思っただろうか。

青峰っち、あんたどうしてあの本を俺にすすめたの?
どうして俺を救ってくれたの?


そして、何度言おうと思っただろう。

あんたが俺を救ってくれたんスよ。

今度は、俺があんたを救いたいんス。
いつも、つまらなそうにレジで雑誌をパラパラと捲っている…そんなあんたを救いたい。

俺に出会った時は、あんなにキラキラしていたのに。
何があったかなんて、まだ知らない。
でも、あんたがこの本を俺に選んでくれたから…今の俺がココにいるんだ。


俺は、一冊の本を鞄から取り出してギュッと指に力を入れた。

その本は、深くて優しい海が表紙に描かれた文庫本。俺の新人研修を担当してくれた、今は文庫編集部にいる笠松先輩に頼みに頼んで2年越しに叶えて貰った、待望の続編。

発売日は、一ヶ月後。
それに合わせて、第一作目も大々的にキャンペーンを打つ予定で、今日はその打ち合わせにやってきたのだ。


一作目の表紙に描かれているのは、広大な丘一面に咲き誇る向日葵。

あの日、青峰っちが選んでくれた…俺の運命の一冊。


待ってて、青峰っち。
今度は俺がこの本で、あんたを救うから。


end.....?

→青黄 パロディ

青黄なのに青峰っちがほとんど出なくてすみません!しかも尻切れ蜻蛉になっとる…。


miraculum
ラテン語で「驚くべきこと」
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