timidus 2《臆病》
リンク記念&キリ番Hit!記念!

#リクエストしてしださったあきさんに捧げます。



2人を繋ぐ、細くて脆い橋。
それを渡った先の景色が見たいと思ったんだ。

でも、その景色に
もしも俺がいなかったら。


「timidus」


リレーの勝利を、そして優勝をバスケ部のみんなと喜ぶ姿に胸が潰れそうに傷んで…俺は堪らず背中を向けて走りだした。

黒子っちが言ってたことは、合ってるかもしれない。でも、肝心な所が間違ってるよ。
俺と戦って、そんでまた付き合い始めたからじゃない。
そうじゃないよ。だって、あんなにたくさんの人に囲まれて、期待されて、愛されてるもの。そこに、俺がいなくても。



気付けば俺は、ぼんやりと廊下を歩いていた。
窓の外はオレンジ色に染まっている。今の時間に名前をつけるなら「さよならの時間」になるんだろうか。
おひさまにさよなら。
今日にさよなら。
さっきまで遊んでいた友達にさよなら。

淋しい時間だな。

胸が苦しくて、涙が溢れそうになる。やばい、今日はコンタクトなんだから我慢しないと。


「……そこで、何しとるん?」
聞いたことがある声に話しかけられ、ハッとして顔を上げる。
廊下の先にはジャージ姿の今吉さんと遊佐さんと若松さん、桜井くんが立っていた。

「あ、あの…その…」
「そこ、バスケ部の部室やでー?」
「っ!?」
今吉さんは俺が立っている前の部屋を指差した。
俺はふらふら歩いてるうちに、よりにもよって、バスケ部の部室前まで来てしまったみたい。
「ジブン、身長たっかいなー。もしかして、入部希望か?歓迎するでー?」
ほな、入りーなと言いながら強引に中に押し込まれてしまった。

あ、あれ?
結構ヤバい?
まだ変装がバレてる気配はないけど…まさか、部室にまで入ることになるなんて。でも、バレてないならいいか。せっかくだから青峰っちが普段使ってる部室を見てから帰ろう。

背中を押されながら、無理矢理中に入り、入り口の近くに立って思わず中を見回す。
部室なんて、だいたいどこも同じような作りだけど…ここで青峰っちが過ごしてるのかと思うと、全く違う所に見える。

そわそわと見回してると、こっちを見ていた今吉さんと目が合った。
「ジブン、バスケはやったことあるんか?そんだけ身長あったら、強そやなー。ま、最強は青峰やけど」
ニコリと人懐こい笑顔でさらりと口癖のように言われた言葉に、また涙腺が緩みそうになって胸がキシリと傷んだ。慌てて下を向いたけど、見られなかったかな。

ちゃんと、青峰っちはここに居場所がある。
良かった。本当に。

それを確かめられたんだ。俺はもう、向こう岸に戻ろう。


帰ります。そう言おうとして顔を上げた瞬間、俺のすぐ横のドアが開いて大きな人影がのそりと入ってきた。
「ちーっす」
「あれ、青峰。珍しな、最初から出る気なんか?」
「あぁ?ちげーよ、着替えに来たんだよ」
「えー?えぇやん、せっかく来たんやからやって行きーな。今日は紅白戦もあるで?」
「やだよ、うぜー」
「おい!青峰、てめー!練習出ろって!」
「はいはい、お疲れー」
「てめっ、こんのがきゃーぁ」
「若松、1日中体育祭で走ったり応援したりしたのに…何でそないに元気なん?何や、そろそろウザいわ」
「やっ、ちょ?!」
「かはっ、だとよー?」
「てめえ、青峰っ!」
「すいませんすいませんっ、あの…僕のせいです!」
「いや、桜井は関係ないだろ」
淡々とジャージから制服へ着替えている青峰っちの横で繰り広げられる会話の応酬に、目を丸くするしか出来ない。

コレが、俺が見たかった向こう岸の景色。なんだ。



思わず固まっていた俺は、バチッと青峰っちと目が合った。
「……あぁ?」
不機嫌そうに眉を寄せて、何か言おうと口を開きかけた。

「あのっ!失礼します!」
ガバッと頭を下げて、すぐ隣のドアから部室を飛び出した。後ろから何やら声がするけど、足を止めることは出来なかった。

全力で走っているうちに、ふともう一ヶ所行きたい場所があるのを思い出した。
桃っちに教えて貰った、青峰っちの取って置きの場所。

せっかく来たんだから、最後に少しだけ見てみたい。
そう思って、風を切る足を屋上に向けた。



それなのに…。
屋上へ続くドアを開けて、半分が群青色に染まっている空を見上げた。

フェンスの所まで行き、広い校庭を見下ろす。
「この景色が、青峰っちが毎日見てる景色か…」
ぽつりと呟き思わず感傷に浸っていると、バンッと屋上と階段を繋ぐドアが開いた。

「てめー、逃げてんじゃねーよ」
何で追いかけて来んの?!しかも声、こわっ!

「おい、ごら。こっち向けよ…もう逃げらんねーの分かってんだろ?あぁ?」
今更変装だとか俺が誰かだとは言える雰囲気じゃない。完全にパニックになっていたら、有ろうことか体の両側に手を突かれ腕の中に閉じ込められてしまった。

ヤバイヤバイヤバイ。
どうしよう。

逃げなきゃと思うのに、頭が真っ白で動けない。
ただギュッと強く目を瞑る。



「……おい、ごら。答えろ、何で逃げたんだよ?……黄瀬」

……はい?
青峰っちの言葉に思わず振り返った。

不機嫌そうな群青色の瞳が、真っ直ぐにこちらを見ていた。
「青峰っち…俺だって、気付いてたんスか?」
「はぁ?!んなバレバレなの、気付かねー方がおかしーっつーの」
「も、もしかして…最初から?」
「あ?あぁ…お前、ドッジボールん時から見てただろ」
手を離してガシガシと頭を掻きながら言う青峰っちの言葉に、頬が真っ赤になってしまった。
ちゃんと変装、出来てると思ってたのに…最初からバレてるなんて。恥ずかし過ぎる…穴に入る所か、消えてしまいたい…。

思わず俯いてしまった俺の頭を、青峰っちはわしゃわしゃと優しい手つきで掻き混ぜた。
「んだよ、泣いてんのか?他のやつは気付いてねーよ。あ、今吉さんはすぐ気付いたみてーだけど」
「えぇ?!い、今吉さん?」
さっき、バスケ部入るかって勧誘されたのに?
「ドッジボールん時、あの人ボール取りそこねてアウトになったろ?あん時、優勝してボーナス予算が入ったら、それでマイちゃんの新しい写真集買ってもいいって言われて…」
あ、だから一気にテンション上がったのか…あそこからの青峰っち、本当に凄かったもんなー。

ぼんやりそんなことを思っていたら、何故か青峰っちは恥ずかしそうな顔でそっぽを向いた。

「ま、写真集なんか、どーでもいいんだけど。んで、その後に……恋人に格好いいトコ、見せたらどーだって言われたんだよ。んな格好してまで見に来たんなら…やっぱ優勝しかねーと思って…」
「っ?!」

今度こそ、顔から耳や首までボンッと音がでるほど真っ赤になったのが、自分でも分かった。

まさか、俺が見てるから?だから、あんなにテンション上がったの?
だからって、テンション上がりまくって、優勝しちゃったの?

何、それ。
青峰っち…どんだけ俺が好きなの?


あんなに不安だったのに。
あんなに淋しかったのに。

全部ぜんぶ、燃え切って沈んでいく夕日に溶けてしまった。

「つーか、お前…んな変装してまで見に来るとか…どんだけ俺が好きなんだよ?」
「う、うっさいっス!アホ峰っち!」
「はいはい。ったく、こんな所で泣くなよ」
口調は心底面倒臭そうなのに、誰よりも優しい声で言いながら、青峰っちは俺を抱き締めてそっと涙にキスした。



「今吉さん、きーちゃんは帰りました?」
「おん。さっき青峰が追っかけてったから、一緒に帰ったやろ」
「それなら、迷子ならずに済みますね…よし、送信っと!」
「なんや、誰に報告?」
「飼い主です、変装が下手なシャララ犬の」



2人を繋ぐ橋は細くて、脆くて、頼りない。

でも、その橋を渡った向こう岸は…驚くほどたくさんの、黄色い花が咲き乱れていた。

つまりは、そういうこと。


end.....

→青黄

リンク記念&キリ番Hit!記念で、夢路あき様からリクエストを頂きました。
【両思いだけど疎遠だった2人が復縁して、サプライズでこっそり桐皇に来たきーちゃんが、桜井くんや若松さん、今吉さんと仲良さげに笑い合っているのを見て嫉妬してしまう】
でした。

リクエストをいただいて案を練っていた最中、目に飛び込んできた69QのEDカード!
もう我慢出来ずに、妄想に走ってしまいました…恐ろしいことをしました。

あき さん、何のまとまりもなくてすみません!
リクエストも全然かなってなくて申し訳ないです!
返品可ですので、どうぞバシバシ返品して下さいませ。


timidus
ラテン語で「臆病」
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