tinpano 《鼓膜》
1日を終えて目を閉じる瞬間

あなたの心がいつも、1人ではありませんように。

その心に、寄り添う誰か、包み込む誰か、守ってくれる誰かがいますように。

大好きなあなたが、どうか。


「tinpano」



腕の中でビクビクと震えている身体を、ギュッと抱き締める。
俺よりもずっと小さな身体で、いつも嫌な顔もせずに俺の全てを受けとめてくれるのが…堪らなく愛しい。今だってそうだ、もう息も絶え絶えでキツいはずなのに、いつもよりたぎっている熱を狭い胎内に受け入れてくれている。何度も、何度も…。

「あつ、し…」
「くっ…!」

赤ちんの、白くてしなやかな脚がピンと伸びる。うねるように絡み付く胎内は浅くて、でもどこまでも深く俺を取り込む。薄く肉がついている腰をしっかりと掴み、根元まで押し込み堪らず熱を吐き出す。

汗が頬から顎を伝って流れ、強い快感に大きく弓なりに反らされた白い喉へと落ちていくのを、妙にリアルに感じていた。





「あ、つし…」

身体もベッドも全部綺麗にして、ベッドヘッドに背中を預けて座り、彼を胸に抱き締める。そっと、優しく、温かく。くたりとして力の抜けている肌はしっとりと上気していて、今すぐむしゃぶりつきたくなる。
でも、さすがにやり過ぎか。うん。


目に毒の肌を隠すためにもタオルケットを肩までかけてやる。
俺の名前を呼ぶ、擦れた声が痛々しい。ベッドサイドに置いておいたペットボトルの水をあおり口付ける。小さくて、この世で一番甘くて美味しい僅かに上向かせた唇を優しく啄み、薄く開いた所に少しずつ丁寧に水を注いでいく。喉が、コクリコクリと心地いい音が響く。
何度かそれを繰り返し、唇の端から溢れた滴をなめる。

あぁ、甘い。

「……今日は、ずっとそんな顔をしているな、敦」
とろんとした、柔らかなプリンみたいな声がした。
気絶していたはずの彼が、いつの間にか薄く目を開けて微笑んでいた。ルビーみたいな、イチゴ味のドロップみたいな、大好きな瞳が俺を写す。
「んー?そんな顔って?」
「そうだな…綿飴みたいな顔、かな?」
「えー?何なの、それ?変だしー」
珍しい例えに思わずクスクス笑い、ギュッと抱き締める。そうしたら彼まで、珍しくクスクスと小さくラムネが弾けるみたいな笑い声を漏らした。
「今日は朝から、ずっと笑顔だから」
「そりゃあね。誕生日だし、赤ちんが傍にいるし」
「みんなからお菓子を貰えたし?」
「うん、あれは嬉しかったし。でも、ストバス大会は余計だし。みんな何だかんだ理由つけてバスケしたいだけだし」
俺が唇を尖らせると、彼は手を伸ばしてそっと頬を撫でてきた。硬いバスケットボールを自在に、けれど完璧に美しい動きで操る手とは思えないほど滑らかで、触れられるだけでとびきり甘い外国製のグミを噛み締めたみたいに身体がソワソワしだす、魔法の手。

あぁ、甘い。

「みんな、お前の誕生日を祝うために集まったんだ。バスケはついで…というよりも、照れるからバスケを集まる理由にしているだけだろう。お前だって、分かっているはずだ」
「…うっさいし。分かってるし」
改めて言葉にされると胸がくすぐったい。まるでマシュマロを口の中いっぱいに詰め込んだみたいに。

「敦」
「んー?なぁに、赤ちん?」
「敦、あつし」
「赤ちん?」
「アツシ…敦…あつし…」


まるで真ん丸の飴玉を口の中で転がすみたいに、何度も何度も俺の名前を呼ぶその声が、俺は大好きだった。もしかしたら、俺はこの声に惚れたのかもしれないとすら思う時がある。チクチクと苛立ちを滲ませて呼ぶ声も、ザラザラと無感情に呼ぶ声も…まんまるな、甘くてとろけそうに呼ぶ声も好きだけど。
やっぱり、まんまるな飴みたいな声が1番かな。

コロコロ、コロコロ。
その飴って、どんな味なんだろう?

「あつし…敦、アツシ…」
「うん…」
「親切で丁寧、情にあつくて、自分の思い通りにならないことを許さない、物事を正し、価値あるものを大切に尊ぶ」
「……?」
まるで渋い好みの子供が選ぶ伸し烏賊の駄菓子を噛み締めて味わうみたいにゆっくり、1つ1つ紡がれた言葉に首を傾げる。
イチゴ味のドロップみたいな瞳が俺を見上げ、ぺろりと一度舐めた後のように僅かにとろりと溶けた。
「敦の意味」
「は?」
「敦っていう、漢字の意味。俺が一番大好きな漢字の意味」
「あ、かちん…」
ぶわっと一気に体温があがる。頬も耳も、熱したカラメルみたいに熱い。
それを見てちょっとだけ得意げに笑うその顔は、どんなお菓子にも例えられないほどに魅力的だ。


あぁ、甘い。
どんなお菓子よりも、甘くて幸せな味。

「敦、あつし、アツシ……生まれてきてくれて、ありがとう」


重ねた左手をキュッと握ると、互いに同じ指にはまった金属が、カチンと小さく鳴った。



10月9日23時56分。
指輪が重なったのと同じように、2人の唇がゆっくりと重なった。



end.....


→むっくん、ハッピーバースデー!

マイペースで、お菓子大好きで、子供っぽくて。

バスケなんて欠陥スポーツ。練習は嫌いだけど、負けるのはもっと嫌い。
でも本当は…バスケを、ちゃんと好き。

そんなむっくんが大好きです。
生まれてきてくれて、本当にありがとう。
- 21 -
[*前へ] [#次へ]
戻る
リゼ