ex aequo 《心から》 2
♯きーちゃん Happy Birthday!!!
#青黄ちゃんは付き合ってます。
#が、中3設定なのでスレ峰状態。
#primum amore 《初恋》    dulce 《甘い》 の続き、と言うか同じ時間軸ですが、単品でも大丈夫です。  ちなみに、この未来はfasti 《カレンダー》  と  sodalitas 《団結》 1 & 2 です。




ふと足を止めたのがその場所だったのは、本当にたまたまだった。

でも、もしもあいつにそう話したなら、蜂蜜色の瞳を輝かせて運命だと言うんだろう。あの時、俺があいつの頭にボールをぶつけて、二人が出会った時のように。


6限目の授業をサボって、空梅雨にふさわしいカラリと気持ちいい青空の下をぶらぶら歩いていたら、いつの間にか花屋の前で足を止めていた。

そうか、花なら。
枯れてしまえば形が残らない。しかも、プレゼントっぽさもちゃんとある。

朝からずっと頭に響いている、「今日は6月18日です」という女子アナの声に押されるようにして、俺はのそりと中へ入った。
花屋なんて、初めて来たからまるで勝手が分からない。つーか、いくら位するんだ…あんまり使うと、来週発売のマイちゃんの写真集買えなくなんだけど。そんなことをうだうだ考えていると、奥から店員らしい女性が出てきて俺の姿にギョッとした。中学に入ってから更に伸びた身長に、こういう反応をされるのはいい加減慣れてきた。
「い、いらっしゃいませ。贈り物ですか?」
制服から俺が中学生だと判断したんだろう、驚きから立ち直り何とか笑顔になると優しい声で話しかけられた。
「……誕生日、プレゼント」
やっぱり少し考えてみたら、誕生日に花を贈るとか…明らかに俺の趣味じゃねーだろ。
今更ながらに自分のチョイスがめちゃくちゃ恥ずかしくなってきて、顔を逸らしながらボソボソと小声で呟く。店員は気を悪くした様子もなくニコリと笑顔を浮かべた。
「今日がお誕生日なんですか?もしかして、彼女?」
や、やっぱり寒いだろ、誕生日に花とか。
お姉さんの笑顔に自分が赤くなっている自覚があって、花を物色する振りをして背中を向けた。
「ま、まぁ…そんなもん」
「素敵ね、彼女の誕生日にお花なんて。好きなお花とか分かります?好きな色とか……今日が誕生日だったら、誕生花を贈るのも素敵だと思いますよ」
「誕生…花?」
聞きなれない言葉に思わず聞き返すと、お姉さんは所狭しと並んだ花の中から一つを抜き取り俺に差し出した。
「6月18日の誕生花で、スイセンノウっていうの。可愛いでしょ?」
赤とピンクの中間みたいな綺麗な小さな花が、いくつか可憐に揺れている。

どうせなら、黄色い花なら良かったのに。

ぼんやり見ながら、この花どこかで見たことがあるなと思っていると、お姉さんが思わぬことを言い出した。
「お花には全部に花言葉っていう、それぞれのお花に着けられた意味みたいなのがあるんだけどね。このスイセンノウは素敵な花言葉を貰ったのよ、それはね−−−−−」

「それ、買います。ください」
気付いた時には、そう言っていた。財布を取出し中を覗くと三千円しか入っていなくて、これを買ってしまえばマイちゃんの写真集は来月のこずかいまで待たなきゃならない。でも、躊躇いはなかった。


アレンジをどうするか聞かれたが、俺に分かるはずもなく。口籠もってしまっていたら、お姉さんが勝手に可愛らしい感じの花束にしてくれた。


これなら、ファンの女からの誕生日プレゼントだと思うかも知れない。
それ位でいい。この花に込めた気持ちに、お前は気付かなくていい。お姉さんにメッセージカードを付けるかと聞かれたけど、いらないと答えた。
あんなに幸せだったキラキラと眩しい日々に、先に覆いをかけてしまったのは俺だから。それでも変わらず笑顔を向け、諦めずに話し掛けてくれていたお前を、散々無視して遠ざけたのは俺だから。
だから、気付かなくてもいい。



花束を隠すように持ちながら、さっき抜け出したばかりの学校に再び戻る。
もうすぐ俺たち3年にとっては、最後の夏がくる。授業はとうに終わり、そこかしこで明るい声が響いているのを、薄ぼんやりした膜のこちら側から聞きながら迷うことなく部室へと向かう。体育館から多くの人間の声とスキール音が聞こえている今なら、部室は無人のはずだ。

黄瀬のロッカーを開けて、潰れないように気を付けて持ってきた花束を入れ、俺は逃げるように家へと走った。ロッカーのドアを閉める瞬間、お姉さんがかけてくれた海の底のような青いリボンが、俺の目に焼き付いた。



ロッカーに花束を入れた瞬間、いつだったか黄瀬がこも花の花言葉の話をしていたのを唐突に思い出してしまったのだ。
あれは、去年の秋だったか。その日突然、さつきが部室に花を飾りだしたのだ。何でも、黄瀬が雑誌の撮影で使ったものを、終わった後に持たされたらしい。男子バスケ部の部室に花というあり得ない組合せに、俺と紫原は爆笑し、緑間とテツは渋い顔をして、赤司はたまにはいいじゃないかと苦笑していた。そんな、何でもない出来事が酷く懐かしい。

でも、今の問題はそこじゃない。

風を切って家へと全力で走りながら、俺はあの日の黄瀬の言葉を思い出していた。
「これ、スイセンノウっていうんすけど、花言葉が可愛いんスよ。この花の花言葉は『いつも愛して』っていうんス」
少し照れくさそうに、それが自分の誕生花だとは言わずに花言葉を口にして、あいつはチラリと俺を見た。
その言葉がこの花をわざわざ部室に持ってきた理由なのだと分かってしまい、いつかの暑い日のように、俺は何とかみんなにバレないように赤くなった顔をタオルに隠した。



ロッカーを開けた黄瀬は、気付くだろうか。
あの花を贈ったのが、俺だということを。

黄瀬は、気付くだろうか。
スイセンノウの花の、もう一つの花言葉に。



スイセンノウの花言葉

いつも愛して。

私の普遍の愛。



黄瀬。
お前のことを振り返ってやらない俺に、今更なにも言えないけど。

お前への気持ちが変わったわけじゃない。
変わってないからこそ、こんな薄ぼんやりした膜越しじゃなくて、鮮やかなキラキラした中でお前の笑顔が見たいんだ。


そんな日がいつか、来るのかどうかも分からないから。
お前は待たなくていい。気付かなくていい。
その花束が枯れてしまったら、綺麗さっぱり忘れてくれていい。


それでも、俺の気持ちは変わらない。


「黄瀬、誕生日おめでとう」

走りながら呟いた声は、僅かに雨が近付いてきた風に乗って、あっという間に溶けてしまった。



end.....

→青黄

どうして、こうなった…(二回目)
すみません…書きたいことは本人的には詰め込んだんですが…ハピエンには程遠い内容になってしまいました…本当にすみません。


きーちゃんは、リボンを見てすぐに贈り主が青峰っちだと分かります。そして、数ヶ月もろくに口をきいてくれていないのに、誕生日に花束を、しかも誕生花をプレゼントしてくれたことに泣き出してしまいます。


きーちゃん、本当におめでとう!
生まれてきてくれて、ありがとう!
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リゼ