一方通行なラブコール






「ルシア、好きだ!」


ばん、と勢い良く扉が開いたかと思うとそんな言葉が聞こえてきた。私は教科書に落としていた目をそちらに向ける。隣で一緒に覗き込んでいたニールも、急に何事かと怪訝そうな視線を投げかけていた。


「どうしたのライル?」
「おい、ここ図書館だぞ…」


無遠慮に入って来た弟に、彼はいささかご立腹のよう。


「だいたい兄さんばっかりルシア独り占めしてズリぃんだよ!」
「これはまた、随分な言い掛かりだな」
「ちょっと二人とも落ち着いてよ」


あぁ…また始まってしまった。仮にもここは図書館なのに、この兄弟ときたら。

(まさに"犬猿の仲"ね…)

目の前で今にも喧嘩を始めそうな二人、名前はニール・ディランディとライル・ディランディ。彼らはこの辺ではちょっと有名な双子の兄弟である。ただし双子と言ってもそっくりなのは顔だけ。兄のニールは成績優秀、人当たりも良く典型的な兄貴肌。片や弟のライルは成績はそこそこで追試なんて当たり前。



「だいたい見る度に違う女の子を連れてるような人に、そんな告白されても説得力が皆無なんだけど?」



おまけに女好きのレッテルまで貼られてしまえば、まぁ最悪だった。こんな対称的なディランディ兄弟だけれど、これでも一応大事な幼なじみ。


「うっ…」
「ハハ、返す言葉もねぇな」
「ちくしょう!」
「ライルうるさい!」


とにもかくにも私はライルに構っているほど暇な訳では無く、間近に迫った定期試験の勉強に勤しむべくペンを握る。ライルのこれは今に始まった事では無いのだ。申し訳ないけど放っておこう。


「あ、ニール。ここってどういう事?」
「あぁ、ここな?これはだな…」


クイと眼鏡をかけ直し、ニールは再び教科書に目を向けた。まったく、スメラギ先生は毎回お酒ばかり飲んで講義が適当すぎるのよ!おかげで試験前は学生がいつも苦労する。ニールが居て本当に良かった。


「……………だ」


そんな事を思いながらニールの説明を聞いていると、背後から聞こえる呟き。


「は、ライルなんて?」
「こうなったら兄さん勝負だ!」
「………はい?」


今、勝負と、彼は言ったのだろうか?


「勝負、ってお前なぁ…」
「何だよ兄さん、怖いのか?」
「は…?」


かちん。珍しく彼に向けられたライルの挑発に、これまた珍しく普段穏やかなニールが眉を揺らす。明らかに苛立っているニールが眼鏡を外すのを横目にしつつ、私は黙々と勉強を続けた。取り敢えずこの兄弟が喧嘩するのはいつ以来だろう。


「だいたいお前みたいに何事も中途半端でちゃらんぽらんな奴が、ちゃんとルシアを大事に出来るのか?!どうせ飽きたらそれで終わりなんだろうが!」
「そんなの何で分かるんだよ!ルシアの事は本気だし、俺だってやる時は意外にちゃんとやるんだよ!」
「やる時はやるって、じゃあいつも真面目にしてろよ!そんなだからお前はいつも長続きしねぇんだろ?!とにかく、何があってもライルにルシアは渡せねぇ!」
「何だと?!」


ぎゃあぎゃあと彼らは喚き、奥のカウンターから司書の女性が眼鏡の奥で二人を睨み付けていた。私はすぐそばの騒々しさにカツカツとペンで机を叩く。

(あぁ、もう)

これ以上は色々と限界、だ…。



「…あ」



ペンを置いて二人の方へ振り返る。と、彼らの向こうで見知った人物が立っているのに私は気付いた。


「グラハム先輩!」
「は?!」
「ん?あぁ、ルシアじゃないか」


本棚から取り出した分厚い本を読み耽っていた彼、もといグラハム先輩は私に気付いてエメラルドの瞳を細める。彼は同じ研究室の先輩だった。私は内心助かったと思いながら先輩に駆け寄る。


「先輩も調べ物ですか?」
「あぁ、論文の資料を探しにな。ルシアは図書館で勉強か?」
「はい!でも分からない所があって」


と言うより、あの幼なじみのせいで全然勉強が進まないのだけれど。


「ふむ。もし良かったら、私の家に来たまえ。私が教えよう」
「え、でも迷惑じゃ…」
「私としては一向に構わんよ」
「…じゃあお願いします」


グラハム先輩がそこまで言うのだ、断る理由は無かった。私は机に広げた教科書やノートを纏めて鞄に突っ込む。そしてこの急展開に着いて行けない、呆然と私を見る二人に向き直った。



「それじゃ、せいぜい頑張ってね」



ウインクをひとつ残して。私は彼らを尻目にグラハム先輩と図書館を出た。


一方通行なラブコール
(い、一体誰だあの野郎は…?!)


「彼らは良かったのかね?」
「良いんですよ、迷惑ですし!」


なんて。内心は二人に迫られずに済んでほっとしてるのかもしれない。だって私にとってはニールもライルも、どちら大事な人なのだから。どちらか一人を選ぶだなんて私には出来ないから。だから二人には悪いけど、もうしばらくは幼なじみを継続でお願いします…。



―――――
ミヤゴンさまのリクエストの
ニール&ライルで幼なじみパロ夢です!
遅くなって本当にすいませんでした。
もっと取り合いさせたかったのですが…。
てかまさかまさかのグラハム落ち←
こ、こんなので本当に良いんだろうか?
良かったら受け取って下さい!
リクエストありがとうございました。


*title:アメジスト少年


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