時にスピカは純情だったり






「…?」


俺は首を傾げる。今俺が居るのはルシアの部屋の前。つい昨日アロウズとの戦闘があって今まで寝ていたのだが、目が覚めて柄にもなく無償にルシアが恋しくなって部屋を訪ねたのだった。でも肝心の彼女は部屋に居ない。


「ったく、どこ行ったんだよ…」


内心舌打ちしながら、当てもなくトレミーの艦内を探し歩く。食堂、展望室、ブリッジ、医務室、格納庫…だがどこにもその姿は無かった。


「しょうがねえ、か」


諦めのため息を吐いて、仕方なく俺は自室へと足を向ける。

(本当にどこに居るんだよ、ルシア…)

若干苛立ちを覚えながらもやっぱりその根底にあるのは"心配"なのだから笑えた。そういえば以前スメラギって人に俺はルシア依存症だって言われた事がある。その時はそれを否定したが、あながち間違ってなかったみたいだ。あぁ、やっぱり笑える。




「…ん?」




そんな馬鹿な事を考えていると、いつの間にか部屋の近くまで来ていた。ふと扉の横の壁に見覚えのある金髪を見つける。


「ルシア!」
「…あ、ロックオン」


それはずっと探していたルシアだった。彼女は俺の声に気付くと、座り込んで伏せていた顔を上げる。俺の姿を見つけると、嬉しそうに笑った。一方の俺は座り込むルシアに慌てて駆け寄る。


「どうしたルシア、具合悪いのか?」
「ん、そうじゃなくてついさっきケルディムの整備終わったから…」


ハロを帰しに来たの、とオレンジの球体を差し出すルシアは眠そうに目を擦った。


「また徹夜してたのかよ?」


あれほど無理だけはしないでくれと何度も言い聞かせたのに。俺はハロを脇に抱えると空いた手で扉を開けて放り込み、次いで未だに座ったままのルシアを抱き上げた。


「ロ、ロックオン?!」
「2人の時はライルって呼ぶ約束だろ」
「いや、そういう問題じゃなくて」


突然高くなった視界に顔を真っ赤にして慌てるルシア。そんな所が可愛いと思いつつ、俺はベッドまで行くとその体を優しく下ろす。


「ライル?…って、ちょっと!」
「何だよ、ルシア?」
「何で入ってくるのよ?!」


もぞもぞと布団に入ると、ルシアが必死に抵抗した。一応これは俺のベッドなんだけども。


「いや、俺も眠いし」
「眠いって…?!」
「ついでに一緒に寝ようぜ」


腰に腕を回して抱きしめ、耳元で囁いてやる。思ったとおり茹蛸状態になったルシアは、もう好きにしてとでも言いわんばかりに大人しくなった。久し振りの柔らかさと温もりに、次第に心が穏やかになるのが分かる。


「…あんまり無理すんなよ」
「ライル…」
「頼むからさ…」


俺は回した腕にきゅっと力を入れ、ルシアの髪に顔を埋めた。ふわりと優しく鼻を掠めるのは、彼女がお気に入りのシャンプーの香り。身体だって当たり前だが男の俺とは違って、ふにふにしていて気持ちいい。


「あー、ルシアって柔らけえ…」
「ちょっ、それ変態発言…」


くすぐったいのか、くすくすと笑いながら言う。でも何気に傷付くんだが。


「…それ普通彼氏に言うか?」
「彼氏だから言えるのよ」
「ったく、そんな悪い子にはお仕置きだ」
「え、ちょっと…やだってば!」


俺よりも少し下に居るルシアをぐっと引き上げて、耳の裏を擽ってやる。突然のことに油断していたルシアは、楽しそうに笑った。でもちょっと辛いのか、俺の腕をぺしぺしと叩くから仕方なく離れてやった。


「もう、ライルの意地悪!」
「なんとでも。…なぁ、幸せだな」


こんな風に愛しい人と共に笑い合う時間がある。命をかけて戦っているからこそ、余計この時が大切な物に思えた。


「そうだね…」
「…ルシア、愛してる」
「私も…愛してるわ、ライル」


そう言って微笑むルシア。ふいに安堵感が全身に広がっていくのが分かった。俺は少し体を離すと、額と目蓋と唇にキスをする。ルシアはそれを大人しく受け止めた。




(生死の狭間で、たったひとつ見つけた光)


「おやすみ、ルシア…」
「おやすみなさい、ライル…」


ルシアの温もりを全身に感じながら、ゆっくりと目を閉じた。明日もまた彼女と共に居る事ができる喜びを噛み締めながら…。



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朱魏さま、お待たせしました!
リクエスト頂いたライル甘夢です。
どうでしょう、甘くなってますか?←
甘夢って何だか書くのが難しくて…。
朱魏さまに気に入って頂けるか不安です。
こんなのですがよろしければどうぞ!
ではリクエストありがとうございました。


*title:rim


リゼ