甘くとろけて紡ぐ
※ヴェロニカ夢主
「うふふ、今年も大量ね」
そう言って部屋に入って来たのはマリア、俺の補佐官を務める女性の海軍将校だった。彼女はその両手いっぱいに綺麗にラッピングされた袋やら箱やらを抱えている。そしてそれはマリアが部屋を出て戻ってくる度に増えていった。
「凄いねそれ、どしたの」
「廊下で擦れ違う海兵さんが私にくれたのよ」
なるほど海兵マジック、いやここはマリアマジックの方が正しいか。今日は年に一度のバレンタイン、日頃彼女に思いを寄せている海兵たちがなけなしの勇気を振り絞っているというわけなのだろう。
「ふふっ、これでしばらくチョコに囲まれて生活できるわ!」
しかし残念ながら彼らの純粋な想いは、彼女に伝わってはいない。
「ところで青雉は?」
「なに?」
「チョコ、貰ってないの?」
「…それ聞かないでよ」
この男だらけの海軍本部で、一体誰から貰えと言うのか。一応部下に女性が居るには居るが階級が違い過ぎて無理だろう。この歳で義理チョコを貰うのも何だか切ない話だし。
(まぁ、別に…)
本命から貰えたのならそれだけで俺は嬉しいんだけどね。
「…寂しい人ね」
「あらら、失礼だよそれ」
だがこの広い海軍本部の何処を探しても、マリアから本命チョコを貰える者など俺も含めて誰を居ないわけであり。もちろん当の本人に好きな人が居れば話は別だが、それでもやはり彼女にはそんな相手は居ないと断言できる。これは出会ってからずっとマリアを見続けてきたからこそ言える事だった。
「…恋って楽しいよ?」
「どうしたの急に」
「いや、ただの親父のお節介」
ほんのささいな事で喜んだり、泣いたり、笑えたり。そんなありふれた幸せを彼女はまだ知らない。
「はい」
そんな事を考えていると、不意に視界が一面ピンク色に染まる。眼前に差し出されたそれに何だと思いながら受け取れば、それはハート型に溶かされたチョコだった。
「え、これ…」
「勘違いしないでよ、青雉にはお世話になってるし。それにこんなことは滅多にしないんだから、むしろ思いっきり感謝してよね…!」
少しいびつな形のハートは、けれど何より手作りの証。
「マリアって不器用?」
「っ、料理出来ないんだからしょうがないでしょ」
「へぇ、料理出来ないんだ」
そしてそれは、きっと、今まで食べてきたどんなチョコよりも溶けるように甘い味がするのだろう。
甘くとろけて紡ぐ
「ガープ中将、どうしたんですかその大きな包み…?」
「ぶわっはっは、秘密じゃ!」
愛情表現の形は人それぞれ。全ての人々に、ほんの一時でも幸せな時間がどうか訪れますように。
(title:HENCE)
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