唇から伝染する




「よし、これで完成!」


目の前には手作りのブッシュ・ド・ノエル。

今日はクリスマスだ。

一年に一度、私達が全てを忘れる日。


「それにしても、遅いなぁ…」


…の筈なんだけど。

紛争根絶にどうやらそれは無いみたい。

今日の朝スメラギさんからミッションが届いて、ロックオンは居なかった。

私はティエリアと一緒にお留守番。


(とは言っても、まさか待機とは…)


できれば一緒に行きたかったと言うのが本音だ。

私が居るのは隠れ家のひとつ。

二人で借りたここはアイルランド…そう、ニールの生まれ故郷である。

あまり慣れない土地に一人だなんて。


「寂しい…お皿並べよ」


はぁとため息吐いて棚を開いた。

二人分のお皿を出して、テーブルにワイングラスと一緒に並べる。

ついでに花も飾ってみた。


「こんな感じかな?」

「おう、上出来じゃねえか」

「ひゃっ?!」


そこで急に視界が暗くなった。


「ちょっと驚かさないでよ!」

「わりぃルシア」


私の目を覆っていた手を掴んで外す。

振り向いてみれば、後ろにはロックオンが立っていた。

苦笑するロックオンを軽く睨み付ける。

そしたら思い切りデコピンをされた。


「こら、そんな顔しなさんな」

「誰のせいですか?」

「ははは、冗談だよ。それより飯にしようぜ、凄く腹減った」


言いながらロックオンは椅子に座る。

私はワインや料理を運んだ。

ロックオンの前に置いて、私も座る。


「それじゃどうぞ」


頂きますと言ってスプーンを手にした。

今日のメニューはアイリッシュシチューとポテトサラダ、ソーダブレッド、七面鳥。

そのほとんどはアイルランド料理だ。

随分と本を読み漁ったものである。

シチューを口に含めば、素朴な優しい味がした。

思わず頬も綻んでいく。


「…あれ、ロックオン?」


ふと前を見た。

ロックオンは皿を見て固まっている。


「食べないの?」

「え、あ、いや。そんな訳じゃ…」

「もしかして嫌だった?」


あまり喋らないロックオンに不安になる。

嫌いな物でも入っていたのかな?

食事の手を止めて、顔を覗き込んだ。

するとロックオンは首を横に振る。


「そうじゃねえ、驚いてんだよ」

「え…」

「まさかまたこれが食えると思わなくて」


スプーンを持ってシチューを掬った。

じゃがいもと一緒に口に入れる。

私はそれをじっと見守った。


「うん、美味いな」


そう言って微笑むロックオンの顔は、とても穏やかだった。






















「でね、これがこの間の」


私達はソファーに座っていた。

ワインを注いだグラスをテーブルに置く。


「なんだティエリア笑ってねえし」

「刹那もね」


二人で見ているのはアルバムだ。

写真を撮るのが好きな私は、よくトレミーの皆を写している。

それをロックオンと一緒に見ていた。

後ろから抱きしめるロックオンが、ページをめくる。

新たな写真を見つけては笑い合った。


「そうだ、プレゼントがあるの!」


しばらくした時だった。

私はプレゼントの存在を思い出す。

一度席を立って自分の部屋に行って、プレゼントを取って来た。

ロックオンの足の間に座る。


「はいこれ」

「サンキュ、開けても良いか?」

「どうぞ」


かさかさと袋が音を立てた。

中から姿を現したのは革のグローブ。


「ルシア、これ…」

「何にすれば良いか分からなくて。だから一生懸命考えたの」


私はロックオンに何をしてあげられる?

そう考えた時、これが頭を過ぎった。

狙撃手のロックオンにとって、手は凄く大切なはず。

ならそれを守ってあげたかった。


「ヤバい、すっげー嬉しいんだけど」


回された腕に力がこもる。


「これ大事にするな」

「ちゃんと使ってよ?」

「当然」


そう言って白い手が私の手を包んだ。

大きくて温かい、ロックオンの手。

自然に胸にも熱が染み渡る。


「で、ロックオンのプレゼントは?」

「あぁ、俺?」

「うん」

「あー、悪い用意してねえや」

「は?!」


咄嗟に私は振り返った。

そこには少し気まずそうな顔が。


「え、嘘…冗談でしょ?」

「………」

「信じらんない」


はぁとため息をひとつ吐いた。

ふて腐れた私は、ぷいと顔を逸らす。

そうすれば、後ろから笑い声が聞こえた。

正直がっかりだ。


「そう拗ねなさんなって」

「…だって」

「これで機嫌直せよ」


ロックオンはゆっくりと手を掲げる。

そして掌に唇を寄せた。

小さなリップ音が耳に届く。

次の瞬間、私の目は大きく開かれた。


「ロ、ロックオン!」

「なんてな、忘れるはずねえだろ」


私が目にしたもの。



「クラダリング、このアイルランドに伝わる指輪だ」



それは左手の薬指に輝く指輪だった。

ロックオンがそっとなぞる。

中心には彼の瞳と同じ色を放つ宝石がはめ込まれていた。


「これは付け方で意味が変わるんだ」

「意味?」

「右の薬指に逆さまだと"恋人募集中"、左の薬指に逆は"婚約中"だ」

「へぇ…じゃあこれは?」

「知りたいか?」

「うん!」


私は大きく頷いた。

ロックオンがフッと笑う。

そしてきゅっと私の手を握った。



「左の薬指に正方位は"恋人がいます"だ」



瞬間、私の唇に熱い物が触れた。



(Let Love Reign...)
(君の全てを愛し、赦し、支配する)



「ロックオン…」

「ニールだ、ルシア。愛してる」



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アンケート第1位、ニール夢でした。
なんとか間に合いましたね。
ちょっとグダグダしてますがorz
いかがでしたでしょうか?
甘めにとのリクエストでしたが、
沿えたかどうか不安です。
クラダリング、素敵ですよね。
私も欲しいな……。


*title:確かに恋だった
(2008/12/25)



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