甘いのください




どさり、と手にした荷物を置いた。

トレミーに戻るまでずっと持ってたから、手がじんじんと痛む。


「つ、疲れたー」

「お疲れさま、ルシア」

「ただいまアレルヤ」


食堂の一画で休んでると、アレルヤが入って来た。

にこにこといつもの様に笑顔を浮かべる。

私もそれに笑顔で返した。

ドリンクのボトルを手渡される。


「刹那とロックオンと行ったって?」

「うん、もう大変だった」

「あはは、想像つくよ」

「笑い事じゃ無いってば!!」

「うん、ごめん…」


ボトルの中身を飲みながら謝るアレルヤ。

それに頬を膨らませながら、私もドリンクを口に含んだ。


「そういえば何を作るか決めたかい?」

「うん、ロックオンの希望でアイリッシュシチュー。あとポテトサラダを」


買い物の間に決めたクリスマスメニュー。


「あ、そうだ。ケーキ作るの手伝って」


身を乗り出して言う。

ケーキ作りは一人だと結構大変なのだ。

ちょうど良いとばかりに目の前のアレルヤの顔を覗き込む。

そこには一瞬だけ困惑が浮かんだ。


「でも僕、作ったこと無いよ?」

「クリームを作るだけで良いから」


はいよろしく、そう言って袋からパックを取って渡した。

はあとため息を吐くアレルヤ。

私達は荷物を持ってキッチンに移動した。

スポンジ担当は私、クリームはアレルヤになった。


「まずはガナッシュ作りからね」


鍋に生クリームを入れて火にかける。


「生クリームは軽く沸騰するまで煮て、その間にチョコを刻むの」

「これかい?」

「うん、それそれ」


エプロンを着たアレルヤが来る。

オレンジ色のそれは彼によく似合った。

まな板の上で手際良く刻んで行く。


「……上手いね」

「そうかな?」


後からティエリアに聞いた話だと、無人島に居た時もアレルヤは料理担当だったらしい。

とにかく包丁の扱いが上手だ。

私が恨めしげに見ると、アレルヤは苦笑する。

少しすると生クリームが沸騰してきた。

火を止めて、チョコを中に入れる。


「うん、ガナッシュはこれでOK。次はクリーム作りね」

「えっとまた生クリームだよね」

「あとグラニュー糖もよろしく」


手元で薄力粉を振るうことに集中しながら言った。

アレルヤはふたつを混ぜて、ボウルを抱えて泡立て機で一生懸命混ぜる。


「電動のもあるよ?」

「大丈夫、こういうの強いし。ルシアの方は?」

「私もこれから混ぜるの」


―これでね

そう言って木ベラを取り出して見せた。

二人とも無言で作業する。

カシャカシャと泡立て機で混ぜる音が、部屋に良く響いた。


(二人きりって、なんか緊張する…)


加えて静かなこの空間。

ちらりと横を見てみると、真剣な表情のアレルヤが。

あぁ、私好きだなこの顔。


「…この位で良いかな?」

「え?」


そこでやっと意識が浮上してきた。

アレルヤはボウルを私に向けて見せる。


「…うん、大丈夫」


泡立て機を軽く上に持ち上げた。

チョコで染まったクリームがトロリと首をもたげて、良くホイップされてるのが分かる。

私は残りの材料を全部入れた。

またしばらく混ぜて、型に流し込む。

そしてオーブンの中に入れた。

その間、アレルヤは横で静かに待つ。


「これで後は焼き上がりを待つだけね」


使い終わった器具を洗った。

手を拭いてアレルヤの横に立つ。

アレルヤはオーブンの中をじっと見つめていた。


「焼き加減はどんな感じ?」

「うーん、もう少しかな」


身を屈めて中を覗き込む。

少し甘さを含んだ香りが鼻孔を掠めた。

それに自然と頬も緩む。

アレルヤも隣でその大きな体を屈めた。


「…さっき僕を見てたでしょ?」

「…………はい?」


一瞬、アレルヤの言ったことが理解出来なかった。

でもすぐに思い当たって、ドキッとする。

みるみる内に顔の温度が上がった。

アレルヤがふっと笑って立ち上がる。


「そう言えばクリームはどうかな?」


上に置いてあったボウルを取って屈む。


「どうぞ、ルシア」

「な、何が?」

「だから味見、してよ」


ね、と言ってグイと差し出された。

私はアレルヤとクリームを交互に見る。

そしてはぁ、とため息を吐くとクリームを指で掬った。

チョコのクリームを口に含む。

途端にほんのりとした甘味が広がった。


「…美味しい」

「そっか、良かった。なら僕も」


アレルヤがにこりと笑う。

え、と思った時にはその綺麗な顔が目の前にあった。

唇には熱が触れる。


「ちょっと苦い、かな?」

「あ、あっ、アレルヤ……」


ゆっくりと唇を離し、苦笑のアレルヤ。

一方の私はこの一連の行動に頭が追い付かずに、口をぱくぱくさせるだけ。


(キ、キスされた…?!)


そっと唇に手を当てる。

彼の温もりが残っている気がした。

私の反応に、アレルヤは顔色ひとつ変えないでいる。


「無防備なんだよ、ルシアは」

「っ、誰のせいだと…!」

「おっと」


振り上げた手を軽々避けた。

こんな時、女であるのが本当に悔しい。

笑うアレルヤはもっと憎い。


「女の子が乱暴は良くないよ」

「黙れこのセクハ…」


その時だった。

私とアレルヤだけの空間に、電子的な音が響く。


「スメラギさんからだ」


それはミッションの知らせ。


「え、私来てない」

「僕と刹那とロックオンだね」


私はアレルヤの端末を覗き込んだ。

画面にはしっかりとミッションの内容が記されている。

なにもクリスマスまでさせなくても…。

心底スメラギさんを恨んだ。


「まだ終わってないのに」

「ティエリアにでも手伝ってもらう?」

「や、やだ!それだけは無理!!」

「なにもそこまで拒否しなくても…」


必死で首を横に振る。

そんな私を見てアレルヤはまた苦笑。


「じゃ、そろそろ行くから」


え、と思ってアレルヤを見た。

そこには普段と変わらない笑顔が。

彼はすっと立ち上がるとエプロンを外して、床を蹴って出口に向かう。


「え、ちょっ…!」

「あ、クリームはもう少し甘くね」

「無理、刹那が多分苦手だから」

「はは、そっか…」


扉まで着くと、アレルヤは振り向いた。






「でもやっぱり甘くしてほしいな」

「だから…」

「今日くらい僕を優先してよルシア」



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アンケート第2位、アレルヤ夢です。
なんかめっちゃグダグダ!
しかもキャラが崩壊してるし…orz
投票して下さった方、すいません。
あああ、本当にリベンジしたい。
ただたんにケーキ作らせたかった。
ちなみに恋人でマイスター設定。

*title:DOGOD69
(2008/12/23)



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