隠しててよ



「一緒に買い物に行く人」

「「はい」」

「……」

「……」

















そうして二人は黙ったままだった。


私がいるのは経済特区・東京。

以前に来た時とほとんど変わりはないけど、季節柄もあって今はクリスマスムード一色だ。

幸せそうなカップルが街を歩く。


「……」

「……」

「………(汗)」


そんな私は今、酷く殺伐とした空気の中にいた。

ちらりと左右を視線だけで確認する。

右側に刹那、左側にはロックオン。

二人ともただ無言で歩いていた。


なんでこんな所にいるのか?

答はもうすぐクリスマスだから。


全てはスメラギさんのいつもの我が儘から始まったのである。

クリスマスパーティーがしたい。

それは私達マイスターがいない間にトレミーのクルーに広まったみたいだ。

気付いた時には既に決定していた。

そうなると勿論買い物が必要な訳で…。

未成年の私はお酒が買えないために、他のマイスターについて来てもらっている。


(だからってなんでこの二人…?)


アレルヤには断られた。

新しく入ったマリーさんが心配みたい。

…ティエリアは怖くて声をかけなかった。

で、残った二人に聞いてみたら冒頭のようになったわけである。

正直な所どっちか一人で良かったのだけど、あの後二人は平行線を辿って今の状況。

結局この面子で日本に買い物に来た。

ちなみにここまでの会話=0。

本当に、先が思いやられる……。



「あ、着いたよ」



そうこうしているうちに、目的のショッピングモールに到着。

見上げれば色とりどりの光が輝く。

中に入ってみれば、そこはクリスマスの買い物で人が溢れていた。


「さてと、じゃあ早速買い物しよう」


そう言って二人の方を向く。


「何を買うんだルシア?」

「えっと料理の食材とケーキの材料でしょ?それからスメラギさんのお酒!」

「やはりそうか…」

「あとマリーさんの服とミレイナの髪留め、ラッセの筋トレ器具にイアンさんの工具、ティエリアの本とシャンプーとリンスと化粧水、ハロの潤滑油、沙慈くんの暇潰し、それから…」

「待て待て待て!!」

「なに?」


事前に渡された買い物リストを読み上げていると、ロックオンが止めてきた。

不思議に思って顔を上げる。

ロックオンは酷く困った顔をしていた。


「それまさか全部買うのか?」

「まだ一杯あるよ」


ほらと言って手にしたリストを見せる。

ロックオンはそれを見るなり、眉間に皺を寄せた。

そして肩をがっくりと落とす。


「マジかよ…」

「とにかく、早く済ませよう」

「…だな」

「……あれ、刹那は?」


ロックオンから目を離す。

先程から刹那の声が聞こえない。

自分よりも幾分背の高い彼を探せば、すぐ近くにその姿はあった。

刹那は広場の噴水を見上げている。


「刹那、どうかした?」

「いや…何でもない。ただ」

「ただ?」


駆け寄って話し掛けると、ちらりとだけ視線を向けられた。

すぐに噴水に目を戻す。



「ただ、こんな所は初めてだから」



あぁそうか、と思った。

きっと今まではこんな場所には縁が無かったんだろう。

だから珍しそうにしているんだと納得。

私は刹那と同じ方向に目を向けた。


「なにやってんだよ、早く行くぞ」


しばらくそうしていると、急に後ろから声がした。

ロックオンが呆れ顔で見ている。


「はーい、行こう刹那!」

「あぁ」

「おい、なんで手を繋いでんだよ!」


ぱっと刹那の手を取る。

すかさずロックオンの突っ込みが入った。


「良いでしょ」

「…なんか腹立つ」

「なにそれ」


繋いだ手を見せ付けるように上に上げれば、ロックオンが眉間に皺を寄せる。


「あはは、しょうがないな。こっちなら空いてるよ?」

「…お構いなく」


一瞬だけ左手に目線が動く。

でもすぐに外して、ロックオンは買い物籠を持った。

つくづく貧乏くじな人だと思う。

素直に繋げば良いのに…。

そんなことを考えながら、私達は食品売り場に入った。

まずは野菜コーナーを見て回る。


「そういえば何が食べたい?」


トマトを手に取りながら私は聞いた。

クリスマスのメニューは私に一任されている。

私自身には特に希望は無かった。


「そうだな…、アイリッシュシチューが食いたい。あとはポテトサラダか?」

「刹那は?」

「…ルシアが作るなら構わない」

「じゃあシチューとサラダか」


と言う訳で私はジャガイモを籠に放り込む。


「この位かな?」

「甘いな、全然足りねぇ」

「え?ちょっ、やめてぇぇぇ!」


慌てて私はロックオンの腕を掴んだ。

不服そうな顔を向けられる。


「…なんだよ」

「多すぎだよ、誰が食べるの?!」

「俺?」

「とにかく、それは戻して!」


籠一杯に入れられたジャガイモの半分以上を売り場に返した。

途中でロックオンが文句を言ってくる。

だけどこの際それは無視をした。

他の必要な野菜を入れて、すぐにその場を離れた。


次はケーキの材料を見てみる。

クリスマスなだけあって、専用のコーナーが出来ていた。

私は二人の手を引いて立ち寄る。


「ケーキはやっぱりノエルだよね…」


クリスマスの定番ブッシュ・ド・ノエル。

別に市販の物でも良いのだろうけど、私はあえて作る方を選んだ。


「刹那はケーキ大丈夫?」

「なぜ聞く」

「いや、甘いの苦手そうだから…」

「………努力する」


そう言って生クリームのパックに手を伸ばす刹那。

心なしか、顔が引き攣っている。

甘さは控えめにしてあげようかな?


「ちょい待ち刹那、2つだ」


ロックオンが急に刹那を呼び止めた。


「何故だロックオン・ストラトス」

「必要だからだ」

「…生クリーム好きなの?」

「ばか、違うっての」


私と刹那が首を傾げる。

一方のロックオンはニッと口角を上げて、不敵に微笑んだ。

何だか嫌な予感がする。

それ以前に正直気持ち悪い…。

私達はこっそりと一歩下がった。

だけどロックオンは私の腰を引き寄せて、耳元で囁いた。



「ケーキ用と、ルシア用だよ」

「…っ!こ、この変態!!」



瞬間、私はロックオンを突き飛ばす。

ロックオンはくすくすと笑い続ける。

ドキドキと心臓が煩くて、耳が熱かった。


「そう怒るなって、冗談だよ」

「あんたが言うと聞こえないのよ!!」


本当にこの人はどうしようもない。

笑いながら言う彼の人は余裕そうだ。

刹那はこの展開に着いて行けないでいる。


「ルシア、結局2つか?」

「1つで良いよ」

「遠慮すんなってルシア…」

「寄るな触るな黙れロリコン!!」


私の声に刹那がパックを戻す。

だけどロックオンは抱き着こうとしてきた。

間一髪でそれをかわすと、私は刹那を連れてレジに急いだ。


「ちっ、つれねえの…」

「さっさと払って来なさいよ !」


お金を渡して強制的にレジに並ばせる。


「ルシア!」

「なに?」


すでに向こうで待っている刹那の方に足を向けた時だ。

ロックオンに呼ばれて振り返る。

そこには今まで見たこと無いような穏やかな顔があった。

私はそれにはっと息を飲む。


「楽しいよな、こういうの」

「…うん」

「向こうに行って待ってな」


フッと笑って伸ばされる手。

私の頭を柔らかく撫でる手は、手袋に包まれていたけど確かに温かかった。

人込みに消えるロックオンを見送って、刹那の元に行く。

少しだけ待つとロックオンが来た。

手にした荷物を手分けして袋に入れる。

その後もスメラギさんのお酒を買ったりして、あっと言う間に夕方になった。

外に出ると吹き付ける風が冷たい。


「ロックオン大丈夫?」

「これくらい平気だ」

「刹那は?」

「特に問題ない」


私達はトコトコと歩いていく。

王留美が用意したホテルはこの近くだ。

はぁと息を吐くと、小さな白い靄が浮かんで消えた。




「……あれ」




不意に視界を影がちらついた。

気のせいかと思ったけど、それはまた起きる。

今度は頬に冷たい感触がした。


「雪、だ…」


しかも初雪。


「どうりで冷え込む訳だ」

「これが雪…」


突然舞い降りたそれに、私達の足は自然と止まる。

降り注ぐ雪は、更に量を増していった。

周囲からも歓声が聞こえて来る。


「…綺麗だね」

「あぁ」

「そうだな…」


私たちを包む天からの贈り物。

汚れを知らない白に、暫くその場に立ち止まって空を見上げた。





(今だけは世間の喧騒から)
(私達だけを切り取って)



「…帰るか」

「あぁ」

「今年はホワイトクリスマスだね!」

「宙からじゃ見えねえけどな」

「「!!」」



―――――――――――――――――――
アンケート第3位、刹那&ライル夢です。
長くお待たせしました。
書き直しに書き直しを重ねた結果、
こんな感じに落ち着きました。
どうだったでしょうか?
二人は一応対立関係の設定です。
もう少し睨み合うつもりだったのに!
刹那とライルの決着はつかないです…。

*title:DOGOD69
(2008/12/19)



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