背伸びの恋 1
「君、こんな時間に一人で何やってるの?」
物腰柔らかな警察官が、夜のパトロール中少女に声を掛けた。
少女はふてくされた様子で答えた。
「バイトの帰り道ですけど。」
「バイト?
親御さんはご存知なのかな?」
少女は幼い顔には不釣り合いに眉間に皺を寄せた。
「大学生がファミレスでバイトするのに、親の許可が必要でしょうか?」
警察官は少女の言葉に呆れたように微笑んだ。
「あのね、嘘つくならもうちょっとマシな嘘つかなきゃ。」
少女はこれまた幼い顔には不釣り合いな溜め息を吐いて、バッグから何やら取り出して警察官に突き付けた。
「免許証?
正化8年生まれ……
てことは21……
こ、これは失礼しました!」
警察官は慌てて敬礼して立ち去った。
──ったく。
この外見のせいでこんなこと日常茶飯事だ。
身長147cmの幼児体型に童顔が付けば、どう見ても中学生だ。
下手すれば小学生にだって見えるかも。
───はぁ、大人っぽくなりたい。
「あのクソ教官っ、絶対私のこと目の敵にしてるって!」
絵里奈の横では同期の笠原郁が吠えていた。
それに応えるのは、同じく同期の柴崎麻子だ。
「でも、ちょっとかっこよくない?
私は結構好きよ。」
「はぁ?!
どこがよっあんなチビ!」
そのフレーズが絵里奈の胸に突き刺さった。
絵里奈からしたら、噂の人物も十分長身なのだ。
笠原みたいなモデル体型の人とは、並んで歩きたくないな。
「村上?
なんであんたがへこんでんの?」
「女の子は小さくてもいいのよ。村上。」
「えっ?
あっ、チビっていうのに反応しちゃった?
ごめんごめんっ。
でも……あたしからしたら、村上みたいにちっちゃくてかわいい子に憧れるけどなぁ。
あたしみたいな大女……全然かわいくないし……。」
笠原も絵里奈と同じくうなだれた。
「ちょ、ちょっとあんた達、たかが身長なんかのことで気にし過ぎよ〜。」
「柴崎はちょうどいい身長だからそんなことが言えるのよ。
それに、笠原は生活に支障がないだけマシ。
私の場合、夜一人で歩いてると高確率で補導されるし、高いところのものは取れないし……。」
「女が一人で夜道を歩くなんて感心できんな。」
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