もう離さない 1
「次の公休前は、夜ちょっと用事があって…。」
公休前日は、一緒に食事をしてから外泊というのが定番となりつつあっただけに、絵里奈の言葉は堂上を落胆させるには十分だった。
「そうか…。」
「実は中学の同窓会があって…で、もしその後でもよければ…。」
申し訳なさそうに付け足された絵里奈の提案にあからさまに喜ぶのも無粋だと、堂上はそっけない態度で応えた。
「飲んで遅くなるなら、迎えに行くから、終わりそうになったら連絡しろ。」
絵里奈は頬を染めながら頷いた。
「今日は同窓会だったな?
楽しんでこいよ。」
終業後日報を提出すると、堂上は内心行かないでくれたらと思いながらも、表面上はなんとか快く送り出した。
「堂上、同窓会は最も成功率の高い合コンだっていうデータ知ってる?」
絵里奈が事務室を出ると、小牧が真面目な顔で問いかける。
「知らん。
だいたいそんなデータどっから出てくるんだ。」
仏頂面で返した堂上に、小牧は盛大に吹き出した。
「俺データ。」
腹をよじって笑い転げる小牧を尻目に、堂上は絵里奈にメールを送った。
『くれぐれも飲み過ぎるなよ。
店まで迎えに行くから、終わりそうになったら連絡しろよ。』
同窓会が終われば、自分との約束があるのだから、他の男について行くこともないだろうし、そもそも絵里奈がそんなことをするとは思っていなかったが、念のための牽制をした堂上であった。
「「「「かんぱーい!」」」」
上京したメンバーだけなので、男3人に女も絵里奈を含めた3人と、図らずも端から見れば立派な合コンであるが、絵里奈は全く気にしていなかった。
「絵里奈は今何してるの?」
「私は関東図書隊の防衛員として働いてるよ。」
「図書隊?!」
「防衛員?!」
「マジか!」
皆口々に驚きの声を上げる。
ただ一人の男を除いて。
「あれ?高瀬知ってたのか?」
「ああ、新世相に村上によく似た図書隊員の写真が載ってたから、気になって調べたんだ。
全国初の女子特殊部隊員なんだよな?」
「うん、まあ。」
「えー何それなんかすごそう!」
「すごそうっていうか、すごいことなんだぞ。
図書特殊部隊、通称ライブラリータスクフォースっていうのは、あらゆる戦闘のプロフェッショナルで、スーパーエリートなんだぞ。」
高瀬は自分のことのように得意気に話す。
「マジかよ。
そんな強そうには見えねーけどな〜。」
「っていうか、高瀬詳し過ぎじゃない?
もしかして、まだ絵里奈のこと好きだったりして〜?」
高瀬は耳をほんのり染めて首を振った。
「いや〜俺みたいなしがないサラリーマンじゃ、スーパーエリートの相手にはなりませんよ〜。」
「そのスーパーエリートっていうのやめてよ〜。
私なんてまだまだ下っ端で、全然未熟なんだからさ〜。」
宴は各々の近況や思い出話で、大いに盛り上がった。
「次カラオケ行こうぜ〜!」
「あっ、ごめん、私はそろそろ…。」
「え〜っ、絵里奈明日仕事?」
「ううん、休みだけど、この後約束あって。」
「なにそれ、彼氏?!
どんな人どんな人?!」
女2人が一斉に食いつく。
「直属の上司。」
「ってことは、その人もスーパーエリート?」
「うん、彼は本当にスーパーエリートと呼ばれるに相応しいと思う。」
頬を染めながら絵里奈が言うと、高瀬はつまらなそうに言った。
「どうせゴッツくて、脳みそまで筋肉みたいなヤツじゃねーの?
そんなヤツほっといてカラオケ行こうぜ!」
高瀬が絵里奈の肩を強引に抱き寄せた。
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