とろける 1

学生の頃からずっと片思いし続けたおかげで、彼以外の男が全く視界に入らず、キレイな体を守り抜くこと早28年。

経験はなくとも知識はそれなりに身に付いた。
だから、周囲には人並みの経験値があるように振る舞っている…つもり。

このまま彼を想い続けて、いつか報われる日が来るのか。

いい加減けりをつける頃か。



「堂上。」

こちらが呼び掛けたのだから、当然のごとく真っ正面から見つめられただけなのに、激しく動揺して口の中がカラカラになる。

景気付けにビールを呷る。

「す、好き…です。」

堂上は一瞬驚いた顔をしたかと思うと、すぐにプッと吹き出した。

一世一代の告白を笑われるという、アラサーにあるまじき状況に目の前が真っ暗になる。

「ああ、悪い。
あんまり凄い形相だったんで、決闘でも申し込まれるのかと思った。」

「……。」

絶句する私にまた軽く吹き出しながら、堂上は私の頭を撫でる。

「そんなにへこむなよ。
じゃあ、俺も言わないとな。」

堂上が不意に真剣な顔になる。

「絵里奈、俺もずっと前から好きだった。
俺と付き合ってくれるか?」

思いがけない展開に、どんな顔をしていいのかわからないまま、とにかくこくこくと頷いた。


こうして始まった初めての男女交際は、私の想像をはるかに越える難易度だった。



「おはよう。」

「お、おは、よう。」

「なんだそのあり得ないほどのぎこちなさ。」

挨拶一つで吹き出される始末。
小牧がいなくてよかった。
堂上がこれなら、小牧なら笑い死にするレベルだろう。

「意識しすぎだ。
業務中は忘れろよ。」

いつものように頭を撫でられただけなのに、自分でもわかるほど赤面してしまう。

「なんだよ。
そんなに赤くなることないだろ?
そんなかわいい顔されたら…。」

そう言うと堂上の顔が近づいてきて、唇と唇が触れた。

ファーストキスは突然に!

「そんなに驚くなよ。」

またもや吹き出した堂上に、自分の動揺を悟られまいと、きびきびと始業の準備をする。

「誰か来たらどうすんの?
笠原や手塚だったら、示しがつかないでしょう。」

「始業前だ。問題ない。
だいたい手塚はともかく、笠原はこんな時間には絶対来ないだろ。」

「う……。」

ぐうの音も出ないとはこのことか。

心臓バクバクの私とは正反対の涼しい顔の堂上に、なぜか悔しさを感じつつ、こんな風に毎日キスできたらいいなぁなどと、自分の発言とは真逆のことを考えてしまっていた。


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