黄色いの 1
「なんだ、あの黄色いの。」
訓練の束の間の休憩中、堂上はこちらに向かってくる玄田が連れ立っている物体を指差す。
「え?!堂上知らないの?!」
「教官あり得ない!」
絵里奈と笠原の絶叫に堂上が眉間に皺をよせる。
「あれは船橋市の非公認キャラクターで、有名な梨の妖精です。」
真面目に説明する手塚に小牧が軽い上戸に陥ったとき、野太い声が堂上を呼び寄せた。
堂上は溜め息とともに玄田のところへ駆け出す。
尤もらしく敬礼をする玄田に堂上も敬礼を返す。
「ヒャッハー!
かっこいいなっしーっ!」
突然の黄色いのの奇声に堂上が戦く。
「がははっ、そうだろう。」
得意気に笑う玄田は、呆気に取られる堂上を驚愕させる一言を放った。
「ふなっしーには1週間お前の班に入ってもらうからな。」
「はあっ?!」
グラウンドに堂上の雄叫びがこだました。
「図書隊の広報活動の一環として、ゆるキャラの潜入密着取材を受けたらしいわ。」
「へぇ、おもしろそうっ!
って、柴崎いつの間に?」
「私、ふなっしーのお世話係を仰せつかったのよ。
当然図書隊一テレビ映えがするってことでね。」
「そういうことしれっと言えるとこが、柴崎のすごいとこだね。」
「誉め言葉として受け取っておきますね。村上教官。」
一層不機嫌オーラを漂わせた堂上が、ふなっしーを連れ立って戻ってくる。
「うちの班に入ることになったふなっしーだ。」
「よろしくなっしー!」
「うわぁ本物だぁ!
私笠原っ。よろしくね!」
「おっきーおねえさんなっしなぁ。モデルさんみたいなっしーっ♪
よろしくなっしー!」
「私は村上。
堂上班の副班長だよ。」
「班長さんは怖そうなっしが、副班長さんは優しそうなっしー♪
よろしくなっしー!」
「俺は小牧。
堂上と村上さんとは同期なんだよ。」
「俺は手塚。
…特に言うことはない。」
「お兄さん達もイケメンなっしなぁっ!
よろしくなっしー!」
ふなっしーとの絡み方が掴めない堂上と手塚以外は、ふなっしーを囲んで和気あいあいと談笑している。
「堂上二正、こんなことしてて大丈夫なんでしょうか。
もし、こんなときに検閲が来たら…。」
「それは大丈夫だろ。
テレビカメラが密着するらしいから、良化隊もイメージダウンになるようなことはしないだろうからな。」
「なるほど。」
「それにしても、あの黄色いの、すごい身体能力だな。」
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