恋が消えたとき 1
私はひどい女だ。
彼に献身的に尽くされている可哀想な彼女を、こんなにも妬ましく思っているのだから。
彼女は突発性難聴という病気で、15歳にして突如聴力を失った。
学校にも行けなくなり、家に引きこもるようになった。
そんな彼女に手を差し伸べたのが、彼女の幼なじみである彼。
私は公休日に会えなくても、メールや電話が激減しても、ひたすら我慢した。
彼に嫌な女だと思われないように。
「村上、なんか顔色悪いぞ。
大丈夫か?」
同期の堂上篤は、いつも私のことを気にかけてくれる。
少し前までは彼も同じくらい、いや、それ以上に私のことを考えていてくれたのに、今は……。
「ありがと、堂上くん。
ちょっと寝不足で。」
彼の親友である堂上くんの前でも、私はいつもいい彼女を演じていた。
「そうか…。
なんか悩みがあるなら、お…
ちゃんと小牧に話せよ。」
話せるなら、とっくに話してる。
言ってしまえばどれだけ楽だろう。
私を見てほしい。
その子じゃなくて、私のことだけを見て!
言ったら、彼はどう思うだろう。
なんて冷たい女だと、軽蔑するに違いない。
もう振り向いてもらえなくても、私は彼の『彼女』という肩書きを失いたくない。
優しい彼は、私を捨てたりはしないだろう。
私はその優しさにつけ込むんだ。
嫌な女。
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