信じてるはずなのに 1
図書大の頃からの同期である堂上、小牧、そして絵里奈の三人は、基地近くの居酒屋で酒盛り中だ。
酒の肴は、今年三人が錬成教官として担当している新入隊員達のことである。
「篤のとこの笠原さんだっけ?
すごいらしいね〜。」
「ああ、体力だけはな。」
「それに、度胸もだろ?
なんせ堂上に噛みつきまくりなんだからさ〜。」
小牧が上戸に陥りつつ茶々を入れる。
「ほぉ、篤に噛みつくとは玄田隊長並みの度胸の持ち主かもね。」
「お前なぁ、自分の彼氏をなんだと思ってるんだ?」
「え〜、泣く子も黙る鬼教官様でしょ。」
「さすが村上さんだ。よくぞお分かりで。」
絵里奈と小牧は顔を見合わせて笑った。
「ったく、勝手に笑ってろ。
それより、絵里奈のところの手塚もかなりのものみたいだな。」
「あぁ、俺も見たよ。
ほとんどの訓練でトップだよね?」
絵里奈は得意気な顔で頷いた。
「そう!私の指導の賜物よ〜。
座学も文句なしのトップだし。」
堂上は苦笑しながら絵里奈にデコピンをお見舞いした。
「お前の戯言はおいとくとして、タスクフォース入りの最有力候補なのは間違いないな。」
堂上の言葉に絵里奈と小牧も頷く。
そして、数ヶ月後、三人は手塚光と笠原郁を加えて、新たな班を編成することになった。
「村上二正、改めてよろしくお願いします。」
手塚が絵里奈に敬礼付きで挨拶してきたので、絵里奈は気恥ずかしくなりながら敬礼付きで挨拶を返す。
「こちらこそよろしくね。
でも、これからは同じ班員なんだから、そんなにかしこまらなくていいからね。」
手塚は照れくさそうに少し俯いたものの、綺麗な姿勢を崩すことなく答える。
「はい、ですが、村上二正には教育期間中もお世話になりましたし、上官であることには代わりありません。」
「まあね…。
手塚ってほんとに真面目だねぇ。
そんなに力んでると疲れちゃうから、リラックスしなよ〜。」
と言いながら、絵里奈が片手で手塚の肩を揉んでいると、堂上の不機嫌な声が飛んできた。
「お前らいい加減仕事しろっ。」
「やばいっ班長様がお怒りだっ!
手塚、館内警備行くよ〜。」
堂上は慌ただしく出て行く絵里奈と手塚の背中を見送りながら、心の奥がざわつくのを感じていた。
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