視線の行方 1
君の視線の先にいるのは、いつもあいつだよね。
男の俺から見ても格好いいあいつだから、それも仕方ないとわかってるつもりだよ。
でも、やっぱり君の視線を辿るたび、胸が苦しくなるんだ。
「堂上教官、小牧教官、お疲れ様です。」
男2人の色気のない晩飯時に、君の笑顔が見られたのは嬉しい。
でも、やっぱり先に出たのがあいつの名前だったことに、少しだけ胸が痛んだんだ。
「私、堂上教官のことが…好きなんです。」
知ってるよ。
でも、一番聞きたくない言葉だったんだ。
「堂上教官は笠原のことが好きだってわかってるんです。
でも…どうしても諦められなくて…。
苦しいんです。」
君の潤んだ瞳に俺が映っていても、君の心に俺は映ってない。
君の気持ちは痛いほどよくわかるよ。
俺も同じだからね。
「わかるよ…。
苦しいよね…。
明らかに自分の思いが叶うことはないって宣告されてるみたいで。」
「小牧教官も…そういう経験あるんですか?」
「あるよ。」
まさに今同じ気持ちを抱えているとは言えなかった。
「どんなに苦しくても好きである気持ちは変えられない。
それなら…。」
そこまで言いかけて、俺は言葉を失ってしまった。
それなら…どうしたらいいんだ。
好きで仕方ない。
振り向いてほしい。
でも、それは叶わない。
やり場のない思いをどうしたら楽になれるんだ。
黙り込んだ俺を心配そうに覗き込む彼女。
「小牧教官?
どうされたんですか?」
「ごめんね。
どうしたらいいのか…俺にもわからないんだ。」
彼女は哀しげな笑みを浮かべて目を逸らした。
「とにかく忘れるしかないですよね。
そのためには時間が必要なのかな。」
「そうかもね。
…でも、俺にはできそうにないよ。
どれだけ時間が経っても、この思いが消えるとは思えないんだ。」
彼女は少し驚いた顔で俺をその瞳に映した。
「小牧教官…今そういう恋愛をしてるんですか?」
「うん。そうだね。」
君にね。
そう言えたら、俺の心も少しは軽くなるだろうか。
そう思いつつも、その先を考えると言えなかった。
優しい彼女のことだから、きっと俺のことを思って悩むだろう。
俺は、彼女に想われたいだけで、悩ませたいわけじゃない。
だから、俺は言葉を飲み込んだ。
「いつか、楽になれるといいね。お互いに。」
なんの解決にもならない気休めの言葉にも、彼女は微笑んでくれた。
その笑顔に俺の胸は締め付けられるように痛んだ。
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