赤い糸 1

『運命』とはこういうことを言うんだろう。


隣で机に突っ伏している恋人をぼんやり見つめながら、私はそんなことを考えていた。


目の前では一人の女の子が、自らを救った王子様について熱く語っていた。


面接官達は皆笑いをかみ殺していた。


私は一人笑うことも、聞き流すこともできずに途方に暮れた。



あれから数ヶ月。


私はさらに途方に暮れることになった。



「笠原、腕下げんな!」

「笠原!!」

「笠原っ!」



彼が呼ぶ彼女の名前、何度聞いただろう。


「あのクソ教官っ、絶対あたしのこと目の敵にしてるって!」


あんなに彼に目をかけてもらってるのに、彼女は不満だらけのようだった。


彼に対する新人達の批評に苛立った。


彼のこと、何も知らないくせに……。


「村上?
先に来てたのか。」


食堂で私を見つけた彼と小牧くんが、同じテーブルにトレイを置き、彼は迷うことなく私の隣に座った。


「なんかあったか?」


どうやら彼は後ろのテーブルの新人達の話は聞いていなかったらしい。


「ん?なにが?」


「すごくこわーい顔してたよ。
鬼教官がもう一人いるかと思った。」


小牧くんは眉間に皺を寄せてみせて吹き出した。


「あぁ、ちょっと頭痛くて…。」


私の言い訳に彼が険しい顔になった。


「それなら午後からの訓練は休め。」


本当にこの人は心配症だ。
いつも私を最大限に気遣ってくれる。


いつも…そうだった。


これからもそうだろうか……。



「おい、絵里奈聞いてるか?」


「聞いてるよ。
でも、本当に大丈夫だよ。
だいたい私達は監督するだけでしょ。
堂上くんたら心配しすぎっ。」


「…だが、本当に無理するなよ。
辛くなったら俺に言うんだぞ。」


とことん心配症な彼に、私はまだ『思われている』という実感を噛み締めることができた。




午後からも相変わらず彼は彼女にかかりきりだ。


そんな2人を見ているのは辛かった。



堂上くん…私、辛い。



言えばきっとすごく心配してくれるよね。


でも、そうやって私は、2人が赤い糸を手繰り寄せるのを、邪魔してるだけなんだよね。


2人の再会が必然なら…これが運命なら、どんなに邪魔したって変わらない。


無駄な足掻きは虚しいばかり……。


それでも私は……たとえ虚しくても、見苦しくても、足掻き続けたい。


彼の傍にいたい。
ずっと……。


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