あなたを追いかけて 1

明日から職場復帰。


戦闘で負傷して一年。
寝たきりの状態から、戦列に復帰すべく必死にリハビリに励んだ。


肉体的な苦しさはもちろん、先が見えない精神的な苦しさに何度も負けそうになった。


でも、私は打ち勝った。
必ず叶えたい目標があるから。



あの人の背中を追っていたい。
そして、いつかあの人と並んで走りたい。


その思いが私の支えだった。


「来週からまたよろしくお願いします。」


自分に向かって下げられた頭を、玄田はわしゃわしゃと撫でた。


「しょっぱなから気張り過ぎるなよ。
上官なんて頼られてなんぼだからな。
堂上にしっかり頼ってやれよ。」


入隊したときからの憧れだったあの人。


直属の部下として働けるなんて、こんなに嬉しいことはない。


「堂上二正、来週からよろしくお願いします
ブランクのせいでご迷惑おかけしないように、頑張ります。」


堂上は絵里奈の頭を優しく撫でた。


「隊長の言うとおり、無理せず俺に頼れよ。
せっかく復帰したのに、体壊したんじゃ意味ないからな。」


相変わらず仏頂面だけど、声は優しいな。


「はい。
では、ほどほどに頑張ります。」


堂上はふっと笑った。


「そうしてくれ。」


うわ〜!笑った!
こんなに間近で笑った顔見たの初めてかも。


「なんだ?
俺の顔になんかついてるか?」


「い、いえっ!
なんでもないですっ。」





こんな調子で一緒に働けるかなぁ。


心臓もたないかも…。




あれこれ手続きやら準備やらしていたら、あっという間に復帰前夜となった。


明日に備えて早めに寝よう。




………寝れない。



布団に入って早2時間。


寝ようとすればするほど目が冴えるという悪循環。


布団から出て上着を羽織ると玄関に向かった。



「村上さん?」



外の暗闇の中から聞き覚えのある声。


目が闇に慣れるとその声の主の姿が見えてきた。


「小牧二正。
それに、堂上二正も。
どうされたんですか?」


小牧はコンビニの袋を軽く持ち上げて見せた。


「部屋飲みしてたんだけど、在庫が切れちゃってね。
村上さんこそどうしたの?」


「眠れないのか?」


堂上が不機嫌そうな顔で尋ねた。


「なんか緊張しちゃって……。」


「一年ぶりだもんね。
緊張するのも無理ないよ。」


「眠れないなら、一緒に飲むか?」


堂上の思いがけない提案に、絵里奈は心臓が止まったような錯覚に陥った。


固まっている絵里奈に、堂上は気まずそうに頭をかいた。


「嫌なら無理にとは言わん。
気にするな。」


「い、いえっ!
もし…よかったら、是非!」


絵里奈の分かりやすいリアクションに、小牧は吹き出しそうになるのを必死で堪えた。


「じゃあちょっとした歓迎会だね?」


共有ロビーで各々缶ビールを開けた。


「じゃ、乾杯のご発声をどーぞ。はーんちょ。」


「そんなもんいいだろっ。」


「まあまあそう言わずに。
かわいい部下の復帰祝いだよ。」


小牧の言葉に堂上は渋々口を開いた。


「いろいろと不安もあるだろうが、お前ならやれると俺は信じてる。
とりあえず飲んでリラックスしろ。

じゃあ乾杯。」


缶をぶつけ合ったところで、小牧の携帯が鳴り出した。


「ちょっとごめんね。」


小牧は片手を上げて外へ出て行った。


どうしよう。
2人きりだなんて……。


心臓の音が聞こえちゃいそう。



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