月蝕 1

論文の資料集めに訪れた図書館。

これまでも何度も訪れているのに、今日ほど高揚したことはなかった。


本を探して書棚に視線を落としていた時、静寂を突き破る警報音が響き渡った。

驚いて音が響いてくる入口方向を見ると、外へ駆け出す男と、それを追う女性の後ろ姿が見えた。

その後ろ姿に引かれるように外へ出た。

女性は男との距離をみるみるうちに縮め、あと少しのところで男に飛びついた。

そして、目にも留まらぬ早さで男を取り押さえた。

女性の仲間らしき男性が何やら声を掛け、振り返った彼女は、今目の前で起きたことがなかったかのような爽やかな笑顔だった。

女性は男を仲間に引き渡すべく立ち上がった。

彼女が160あるかないかぐらいの身長で、ごく一般的な女性らしい体つきであることには驚いた。


あんな華奢な体で、大の男を取り押さえるなんて…。


彼女が一体何者なのか興味が湧いた。


図書館に戻ると、早速近くにいた図書館員に話を聞いた。

そして、彼女がタスクフォースという図書隊の精鋭部隊の一員だということがわかった。



その日から、強く可憐な彼女の姿が頭から離れなくなった。

気付けば足は毎日図書館に向かっていた。


ある日カウンター業務をしている彼女を見つけると、適当に本を見繕って彼女の列に並んだ。

彼女はあの日と同じ爽やかな笑顔を僕に向けてくれた。


またある日は、仲間らしき男と館内警備をしている彼女の姿を、本を片手に見つめていた。

パンツスーツに身を包んだ凛とした背中は、本当に綺麗だった。


そして別の日には、グラウンドで銃を抱えて走る彼女を見つけた。

華奢な体には不釣り合いな戦闘服姿が新鮮だった。
男に紛れて頑張る彼女が、なんとも健気で……愛おしささえ感じた。


日を追う毎に彼女への思いは募るばかりだった。

もっと彼女のことを知りたい。

もっと彼女の傍に近づきたい。



思いとは裏腹に、僕はただの一利用者という立場から抜け出せずにいた。

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