恋の奴隷 1
「今週末のお祭り、堂上班+柴崎&毬江ちゃんで行こうよ〜!」
笠原の提案で訓練の疲れも吹っ飛び、絵里奈は早速堂上にメールを送った。
堂上からほどなくして届いた了承のメールに、絵里奈は満面の笑みを浮かべた。
「ちょっと〜なににやけてんのよ。
っていうか、私だけ一人じゃん!
う〜つまんない〜!」
むくれる笠原を柴崎が宥めにかかった。
「はいはい、拗ねない拗ねない。
浴衣綺麗に着付けて、メイクも可愛くしてあげるから、いい男が寄ってくるかもよ〜。」
「堂上、浴衣の着付けの仕方って知ってる?」
堂上の部屋での酒盛り中、小牧が不意に真面目な顔で聞いた。
「はぁ?なんだいきなり。
俺がそんなもん知るわけないだろ。」
呆れ顔の堂上に対して、小牧がまたもや真顔で迫った。
「じゃあ、可愛い彼女に浴衣で迫られたらどうするんだよ。」
「そ、それは……。
だいたい着てくるからには、自分で着られるってことだろうが。」
「毬江ちゃんの場合、お母さんに着せてもらうって話だし、村上さんも柴崎さんが着せてあげるんじゃない?」
「……そうなのか。
って、お前みんなで行くっていうのに何する気だ?!」
小牧はニヤリと笑った。
「堂上こそ何想像したんだよ。
だいたい中学生じゃあるまいし、みんなで行くからってずっと一緒にいるわけじゃないだろ?
幸い翌日も公休だし。」
可愛い彼女の浴衣姿の妄想が、頭から離れない堂上であった。
そして週末がやってきた。
「うん!完璧!
さっすが私!」
手際よく着付けとヘアメイクを施した絵里奈と笠原に、柴崎はご満悦だ。
3人そろって待ち合わせの共有ロビーへ向かうと、そこにいた男性達の視線が一気に集まった。
もちろんその中に待ち合わせ相手の3人が含まれることは言うまでもない。
「3人とも綺麗だね。
見とれちゃったよ。
ね、堂上?」
「……ああ。
そ、それよりさっさと行くぞ。
毬江ちゃん駅で待ってるんだろ?」
柴崎が絵里奈に耳打ちした。
「堂上教官ったら動揺してるわね。」
「うわ〜賑やかぁ。
あっりんご飴!綿菓子もいいなぁ。」
祭会場に到着した途端、笠原は大はしゃぎ。
そんな笠原に手塚が呆れた様子で釘を刺した。
「子供か。
一人でチョロチョロして迷子になるなよ。」
「お祭りではみんな子供に戻るのよ!
行こう柴崎!」
笠原が柴崎の手を引いて歩き出すと、手塚も渋々後に続いた。
「じゃあ俺達も行こっか。
毬江ちゃんは何か食べたいものある?」
小牧と毬江ちゃんが仲むつまじく手をつないで行った。
「行くぞ。」
堂上は絵里奈の手を握ると足早に歩き出した。
「教官…
あの、私、そんなに早く歩けなくて…。」
慣れない浴衣と下駄で、絵里奈の足は覚束なかった。
「ああ、すまん。」
「せっかくのお祭りなのに、浴衣だと動きにくくて…。
やっぱり洋服で来ればよかったですね。」
切なげに微笑む絵里奈を抱き締めたくなる衝動を抑えて、堂上は素っ気なく答えた。
「そうか。
俺は…いいと思うがな。」
途端に絵里奈の表情が明るくなった。
「ほんとですか?」
「よく似合ってる。
……他の男には見せたくないぐらいだ。」
「堂上教官って、ヤキモチ焼きですよね。」
絵里奈がからかうと、堂上は耳を赤らめた。
「うるさいっ。
お前が……可愛すぎるからいけないんだろうがっ。」
堂上の開き直りに絵里奈は吹き出した。
「笑うなっ。
ほらっ行くぞ!」
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