好きの理由

『聞いた?
堂上二正って村上と付き合ってるらしいよ〜』
『えっ、なんで〜?
確かに堂上二正の部下ではあるけど、あの子ってぱっとしなくない?』
『そうそうっ堂上班で言えば、笠原の方がスタイルいいし、柴崎だっていつも一緒にいるんだから、普通絶対柴崎に目行くよね〜』



堂上教官と付き合い出してから、こんな会話をたびたび耳にする。


確かに私はぱっとしない。


笠原、手塚と同じく特殊部隊員ではあるが、訓練や座学の成績は概ね中の上といったところで、我ながらどうして自分が特殊部隊に所属しているのか甚だ疑問だ。


それに外見はといえば、これまた概ね並といったところだ。
身長160p体重52sにCカップの胸。
良くも悪くもないスタイルだと自負している。




そんな私を、堂上教官はなぜ選んでくれたのか?




それは、他の誰よりも私自身が大いに疑問に思っていることだ。



それでも、やはり他人から言われると凹む。



自分の平凡さなど自分が一番よくわかっている。
教官には釣り合わないということも…



でも、教官のことが好きで仕方ない。


この思いだけは誰にも負けない自信がある。



そんなことを考えていたら、無性に堂上教官に会いたくなってしまった。


でも、もう消灯時間まで30分ちょっとしかない。
それに、自分から教官を呼び出すようなこともできず、悶々とした気持ちを鎮めるべく、ジュースでも買おうと共有スペースへ向かった。


すると私の思いが叶ったのか、そこにはソファでビールを飲む堂上教官の姿があった。



「絵里奈、どうした?こんな時間にジュースか?」
「はい、なんか喉渇いちゃって。」

そう言ってジュースを買って、教官に向き直ると、堂上教官は自分の隣をポンポンと叩いて、私に座るように促す。



「なんかあったか?」

堂上教官は仕事のときとは違う甘い声で尋ねてくる。

「別に何もないですよ〜。」

努めて明るく答えたつもりだが、堂上教官の表情がわずかに曇った。

「お前はわかりやすいな。
何かあったんならちゃんと俺に言え。
俺はお前の上官であり彼氏なんだぞ。
俺には言えないことなのか?」

少し切ない表情でそんなことを言われれば、話さざるを得なかった。


「教官はどうして私なんかと付き合ってくださってるんですか?」


思い切ってそう尋ねると、堂上教官は心底不思議そうな顔で答える。


「どうしてって…好きだからに決まってるだろ。
それに私なんかってなんだ?」


不思議を通り越して、若干不機嫌そうにも見える堂上教官のあまりにもシンプルな答えに、戸惑いつつも、私はなんとか言葉をつなげた。


「なんていうか、私ってすごく平凡で、笠原みたいにスタイルがいいわけでも足が速いわけでもないし、柴崎みたいに美人でも切れ者でもないし、手塚みたいに完璧でももちろんなくて…
要するになんの取り柄もないのに、どうして教官は私と…」

「あほか貴様は…どうして他人と比べて自分を卑下するんだ。
お前はお前だろ。
俺は他の誰でもない絵里奈が好きなんだ。
それだけじゃ不満か?」


優しくも切なげな声でそういうと、そっと私の頭に手を乗せた。


「お前のいいところは、俺が一番よく知ってるんだ。
誰がなんと言おうと、絵里奈は俺の自慢の彼女だ。
わかったか?」


真っ直ぐな瞳で私を見つめる教官は、私が小さく頷いたのを見て、そっと唇を重ねてくれた。


「ただし努力すべきところは努力して、現状に甘んじることのないようにな。」


「は、はいっ!」


急に上官口調になった堂上教官に、慌てて敬礼付きの返事をすると、教官はふっと笑って私の頭の上で掌をポンポン跳ねさせた。


そうか、私は私。


堂上教官が好きって言ってくれる自分を、私自身もう少し好きになってみよう。


end
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